「ハァ、ハァ、ハァ………くっ、まさかこのようなことになるとは………」
荒い息を吐きつつ、彼女はつぶやいた。
自国と隣国との国境線となっている広大な山林の中。
既に太陽が沈んでからの時間より、次に太陽が昇るまでの時間を考えた方が短い時刻で、わずかに発光するコケなどをのぞけば、後は月明かりしか頼りにするものの無い深い森の中を、軽装とは言え鎧に身を包んだ女騎士が一人、周囲の気配をしきりに窺いながら歩いていた。
「こんな所で諦めるわけにはいかない、これを届けるまでは………」
と、胸当ての下に隠した小さな筒を確かめる。
これさえ無事ならば、この身が傷を負っても歩く足を止めない、そう決めていた。
長らく対立状態にあり、ここ十年あまり武力衝突こそ無いものの「冷戦」状態にあった自国と隣国、この半年で、ようやく真の和平に向けた歩み寄りが実を結び、自分の持つ国王直筆の親書が隣国の王に届けば二国の同盟が成立し、事実上、対立状態は解消されるはずだった。
しかし、親書を持った彼女とその一行が国境を越えようとしたその時、
街道沿いの森の中から飛び出した一団が強襲をかけてきた。
突然の襲撃に、国境を前にしてわずかに油断していた仲間たちは次々に倒され、彼女はやむなく重装となる盾や武具を捨て、軽装の鎧にレイピア一本で森へと入ったのだ。
「しかし、あの者たち………ただの賊ではなかった…………」
彼女たちを襲った一団は山賊のような姿をしていたものの、
その技や統率のとれた動きを見る限り、どう見ても訓練を受けた兵士だった。
第一、王国の旗を掲げた一団を襲う山賊などいるはずがない。
「噂は本当だったということか………おのれ…………」
王宮でまことしやかに囁かれていた噂。
王位を狙う宰相が隣国の者にそそのかされ、和平を妨害する動きに出ているという。
若い騎士である彼女にはただの噂としか思えなかったが、どうやら本当のことだったらしい。
「だが、これが届けばその企みも終わりだ。見ているがいい」
己の欲望のために国を売るような男など、彼女にしてみればオークやゴブリン以下だ。
自分たちを襲撃した一団が、荷物の中に親書が無いことに気づくまではまたしばらくかかるはず。
それに、咄嗟の判断で連中の目を盗んで森へと潜んだ自分だ。
森へ入るのを見られてはいないはずだし、連中もまさかこの森を女騎士が一人で抜けるなど、そう簡単に考え付いたりはしないだろう。
いがみ合う二国が、それでも共同で街道を作らなければならなかったほど、
この森の中は危険に満ちている。
多くのモンスターが住み、怪物化した植物も多く自生するここは、しぶとさが売りのオークですら住処にはしないほどである。
いくら街道を使うとはいえ、一行が夜間にこの森を抜けることも最初の内は反対された。
だが、それもまた襲撃者たちをかわす意味でも重要だったからこそ、あえて選んだ選択だった。
「モンスターの気配にさえ気をつけていれば問題無いはず…………」
歩きにくい足元を注意しつつ、彼女は確実に森を進む。
この親書を渡して同盟が成立し、自分が自国へ帰った上で宰相を告発する。
同じ一行の者たちはおそらく生きていまいが、その無念も晴らすことができる。
幼少の頃より騎士を志し、全てを王国に捧げてきた彼女だけに、その胸はより強い意志に燃えていた。
「必ず、辿りついて、そして…………絶対に許さん」
一歩、また一歩と歩みを進める。
感情は昂ぶっていても、その鍛え上げられた神経は一瞬もゆるまない。
付近にモンスターの気配が無いことを確実に読み取りながら、足を踏み出す。
やがて生い茂る木々のトンネルを抜け、わずかに頭上の開けた場所に出る。
差し込む月明かり。
その優しい光の中でも、彼女の緊張した気配に揺るぎは無い。
だが、彼女は知らなかった。
この森が、彼女の見たことも無いようなモンスターの住処になっているということを。
そして、彼女が月明かりの中にその一歩を踏み出した時、「ソレ」は動いた。
じゅる………ぐびゅるっっっ!
「なにっ! こ、これはっ!?」
突然、足元の地面がぬかるんだようになり、ただ並んでいるように見えた岩がグネグネと動き出す。
そして、その岩の隙間から飛び出した数本の触手が、彼女の足に絡みついたのだ。
慌てて体勢を整えようとするが、踏みしめる地面の全てが既に軟化して、
瞬く間に両足とも触手によって捕らえられてしまった。
見れば、自分の立っていた周囲、月明かりに照らされたその場の地面すべてが、今や肉感を帯びた一個の生命体と化していた。
「バカなっ!? これ自体がモンスターだと言うのか!?」
地面そのものに擬態し、その上にやってきた獲物を狙う。
見た限り、目や口らしきものも無い、肉塊と触手だけのソレは、どう見てもまともな生き物ではなかった。
倒れそうになるのをなんとか堪えながら、彼女はそれでも腰にしたレイピアを抜く。
これでも、若くしてモンスター討伐ではそれなりに名の知れた彼女である。
「このっ!」
足元の触手を退けるため、触手の根元めがけてレイピアを突き立てる。しかし、
ぶちゅっ! じゅるぅ…………
別の触手の先端に開いた小さな口からレイピアに向けて吐き出される粘液。
それを浴びた途端、細身の長剣は見る影も無く溶け、折れてしまった。
「なっっ!?」
驚いた彼女の両腕と腰にも触手が素早く絡みつき、その身体は大きく持ち上げられる。
気づけば、触手の吐き出す粘液によって両足の具足もほとんど原型をとどめていない。
「は、放せっ! このぉっ!」
ジタバタと暴れるが、自分の体重を他に支えられた不安定な状態で大した力は出ない。
触手たちは彼女の全身に粘液を吐きかけていく。
「くっ! このままでは………」
その粘液がモンスターの消化液だと思った彼女は、やがておかしなことに気づいた。
吐きかけられる粘液によって、厚手の布地で作られたスカートや足の具足同様に鋼鉄で作られた籠手、そして胸当ての止め具などはどんどん溶かされていく。
にも関わらず、素足同然になった両足や首筋に付着した粘液からは、
肌を溶かされるような感触は感じない。
それよりはむしろ…………、
(な、なんだこの感触は………肌が……身体が、熱くなる…………)
今まで感じたことの無い感触に、次第に体温があがり、ジットリとした汗が出てくる。
そうしている内に、彼女の鎧はほとんど溶かされてしまい、
半裸となった彼女の身体から、止め具を溶かされた胸当てが外れる。
すると、その内側に隠してあった親書入りの筒が触手の群れの中へと落ちてしまった。
「ダ、ダメだ………それだけは………」
必死でもがく彼女は既に鎧も無く申し訳程度に残った兜の残骸を頭に乗せている他は、飾り気の無いショーツにタンクトップという、下着だけの姿だった。
そして、その彼女の両足を、触手たちは大きく開かせようとしていた。
「くぅ………やめろ……っ。んぅっ………」
既に全身に広がったその熱く甘い感触に耐え、その両足を閉じ合わせようとする彼女。
粘液に溶かされたショーツはボロキレと化しており、今その足を開かれれば、どんな姿になってしまうかわからない。
女としての理性が、それを拒ませていた。
しかし、自分の真下、触手が蠢くその中に転がる親書入りの筒。
筒自体には王国の魔導師によって防護が施されているので、そう簡単に溶かされはしないだろう。
だが、それも長い時間ではない。なんとか拾い上げてここから脱出しなければ、
自分に託された二国の平和という希望がこんなモンスターによって溶かされてしまう。
「っく………なんとか………あれを………」
筒を拾うためには、前のめりになって手を伸ばさなければ届かない。
しかし、この不安定な体勢でそんなことをすれば、両足を閉じておくことも難しい。
騎士として、そして女としての理性が、彼女の中で猛烈な葛藤を生んでいた。
そして、
(この身は王国のために捧げたのだ………このくらいは………っっっ)
殊勝な決心を固め、彼女は両腕の触手を振り払うようにして足元へと手を伸ばす。
あと少しで手が届く距離、その時。
ずりゅ………ぶちゅっ!
「ひっ! かはぁっっ!」
股間を襲う衝撃。
触手により大きく開脚されたその中心、真っ白な布地が張り付いただけのその上から、彼女の秘華に触手が吸い付いた。
「あうぅっ! や、やめろぉっ!」
至近距離から吐き出された粘液がショーツの残骸を跡形も無く溶かし、群がる触手の前に、誰にも見せたことの無い秘部が晒される。
「う、うぅ………くっ………」
羞恥に頬を染めながら、それでも筒へと手を伸ばそうとする。
しかし、触手は新たな獲物にまで襲い掛かった。
じゅるっ! しゅるるるっっっ!
彼女の両手を再びとらえて後ろ手に固定すると、
溶けかけたタンクトップからのぞく双丘へ巻きつき、薄く色づいた蕾を先端の口で含んで粘液まみれにする。
「あっぐぅぅ………やっ! やめっ………くぅ……」
全身を駆け抜ける電流のような刺激。
今まで感じたことの無い、「快感」というその名を当てることもできないままに、彼女の身体は触手によって弄ばれる。
目の前に転がる親書の筒を拾うこともできず、女騎士の身体は快楽の波に流され、ただの「女」としての反応を示し始める。
乳首は痛いくらいにしこり立ち、触手の先端を擦り付けられる秘裂は愛液を溢れさせる。
そして、
ぐにゅ…………
他の触手とは微妙に形の違う、むしろ男性器に近い形をした触手が、触手によって左右にパックリと開かれた秘部に押し当てられる。
その感触が何を意味するのか、彼女もまた女の本能で悟る。
「や、やめっ……………」
ずぶっ! ぶちぃっ!!!
「あがっ! がぁぁぁぁぁっっっっっ!」
守り通した純潔が引き裂かれる、その痛みに彼女の瞳が大きく見開かれた。
女騎士の膣内をかき回すように動き回る触手。
だが、身体を引き裂かれるようだったその痛みは、触手によって膣壁に染み込まされた粘液によって、しびれるような快感へと塗り替えられていく。
ずぐっ、ぐじゅっ、じゅぶっっ………
「うっぐ……あふぁっっっ! だ、だめ……溶けるぅ………」
モンスターの粘液によって、それまで感じたことも無かった自分の「女」を無理矢理引き出される。
ビクビクと震える身体の中で、それでも騎士としての理性が最後の一線をつなぎとめる。
「だ、だめだ………私はぁ………かふぅっ………」
処女を引き裂かれた屈辱と騎士としての誇りに挟まれた彼女の視界に、粘液の池に落ちた親書の筒が飛び込む。
彼女が辱められる間粘液に浸され続けたそれは、今まさに中身ごと溶かされんとしていた。
「ぐ、ぅぅ………あ、あれだけは………ぁぁぁ」
なおももがこうとする彼女の胎内で、触手の先端が子宮口へ抉りこむ。
「ひぃっぐぅぅ………や、やめろぉ………」
ビクビクと震えながらその先端を子宮の中で大きく開く触手。
その根元、親書の転がるすぐ下で、粘液に包まれた丸い何かが触手へと流れ込んだ。
「あ、ぅぅ………ま、まさか………」
それが何なのか、頭で理解してもわずかに残った彼女の理性が必死で否定しようとする。
しかし、それすら押し流すように、ソレは触手の中を通じて彼女の子宮へと迫る。
「やめっ………やめてぇっ! お願い、お願いだからぁっ!」
騎士としての誇りも何も無く、一人の女となって泣き叫ぶ。
しかし、そんな彼女の言葉を理解するほどの知能など、モンスターにある筈もなかった。
生殖という本能のみに従って女騎士の胎内を犯す触手、そして、
ぶちゅっ………ごぽごぽごぽっっっ!
「ひっ!? いやっ! いやぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
触手の先端から彼女の子宮へと吐き出される大量の卵。
身体をよじってそのおぞましい感触から逃れようとするが、しっかりと子宮へ食い込んだ触手から逃れることなどできるはずもなく、彼女の下腹部は生みつけられた数十もの卵によってポッコリと膨らんでしまった。
「あ、ああぅぅぅ…………く、苦し………ぅくっ………」
空ろなまなざしになる彼女の目の前で、粘液に浸され続けた親書の筒がドロリと溶けて崩れ落ちる。
だが、そんな光景すら今の彼女には何の感情も呼び起こすことはなかった。
そこにいたのはもう王国の女騎士ではなく、モンスターの生殖の肉道具となった一匹の牝だったのだから。
★
この事件から半年も経たない内に、二国間の対立関係はついに最悪のものとなり、戦端が開かれるのにさほどの時間はかからなかった。
双方が疲弊しきるほどの戦争を繰り返し、そして内乱や賊の跳梁により、数年を待たずして二国ともに崩壊という末路を辿る。
だが、それもまた歴史の一幕に過ぎず、その滅亡の原因がそもそも何であったか、そして、和平決裂の裏にどんな要因があったのかなど、所詮は些細なことである。
おわり