Lamb様作
魔物達の聖母 竜騎士のレナは・・・

魔物たちの聖母


土の称号を手に入れたその日、ガラフとクルルは元の世界へ帰っていった。
あとは自分たちで、そう言い残して。

「…助けに行こう。ガラフ達の世界が壊れれば俺たちの世界だって…。世界の運命を二人だけに背負わせるなんて出来ないし、していいことじゃないだろう。」

バッツの意見にレナとファリスもためらうことなく頷いた。
けれどそこは未知の世界、装備も力も十分に蓄えていく必要がある。
ずっと魔道師系を担当してきたレナは竜騎士にジョブチェンジすることにした。

「レナ、戦士系はつらいんじゃないか?無理はしなくていいんだよ?」
「ううん、いいの。いつまでも甘えていられないし。それに竜剣が極められればもっとみんなの役に立てると思うの。」

命あるものは、たとえモンスターであっても、傷つけることをためらうレナのその固い決意にバッツとファリスは見守るしかなく、また頼もしく思った。
ファリスの情報で三人は流砂の砂漠に向かう。

「ここにたまに出てくる熊の化け物はすごい槍を持ってやがるらしいぜ。」

すべては少しでもレナが楽に進めるための選択だった。
しかし、慣れない重装備に彼女は砂に足をとられ、流砂に吸い込まれてしまう。



気が付くと、レナは一人、薄暗い岩場に投げ出されていた。

「…バッツ?…お姉様!」

わずかにこだまする自分の細い声だけが響く。
二人から返事はない。
何か邪悪なものが蠢く嫌な気配だけが彼女の細い神経を蝕んでいた。
その上この砂漠には武器を求めてきたのだ。
手元にあるのは頼りないナイフくらい、身に纏う重い鎧すら、今は彼女の体を冷やす一因になってしまう。
乾燥した砂漠では、日のあたらないこの岩場は寒いくらいだった。

心細さに涙が溢れ出す。
けれどここでくじけるわけにはいかない。
レナは顔をぬぐうとなんとか起き上がり、脱出口を探した。だが。

「きゃっ…!」

立ち上がったとたんに足をとられ、再びひっくり返ってしまう。
頑強な装備のおかげで痛みはそれほどなかったが、衝撃に一瞬遠のいた意識を何とか取り戻し、レナは足元を確かめた。
頭の皮を剥いだような不気味な砂漠の魔物が、赤黒い手をブーツに絡めている。
不思議と瘴気はなく、レナは強気に出ることが出来た。

「お放しなさい!立ち去れば殺しはしないわ!」

この魔物は以前にも見たことがある。
出会っても戦わずして逃げてしまう、容姿の割に臆病な種類だ。
普段はファリスの役割だが、レナは思いきって凄んで見せる。
けれどまったく、魔物は彼女の足に絡んだまま動こうともしなかった。

「…お、お放しなさい…っ!」

レナの震えだした声に、魔物の手がぬるぬると伸び、ブーツから直に彼女の剥き出しになっていた白い足に絡んだ。

「…ひっ!」

あまりの気味の悪さに、こらえていた涙が噴出した。
持っていた唯一のナイフで闇雲に切りつけ逃れると、レナは恐怖と寂しさでめちゃくちゃに走り出した。
しかし力の入らない足はすぐにまた何かにすべり、けれど冷たくはなかった。
痛くもなく、けれどやわらかいわけでもなく。
無数のぬらぬらとした触手が彼女を包んでいた。

「きゃああぁぁっ!!」

それはあの魔物の大群だった。
逃げる隙など既になく、触手はきつく締まりだす。
固い鎧がみしみしと音を立ててきしみ、壊れた隙間から、レナの肌を直に舐め出した。

「嫌…っ嫌ぁっ!!やめてぇ!」

哀願の言葉など通じるわけがない。
それでも彼女は叫ぶしかなかった。
このまま絞め殺されて彼らの餌になってしまうのだろうか。
しかし、レナの竜騎士の装備の半分ほどが剥がれてしまったところで、締め付けは弱まった。
ぎゅっと閉じていた目をうっすらっと開く。

「っ!!」

目の前には彼らの伸びた腕より一回り太く、ごつごつとした管だった。
彼女の目の前で、そこからうっすらと緑がかった液体と、それに混じって小さな真珠のような半透明の球体が無数に零れる。
それが卵で、目の前に伸びているものが卵管だとレナはすぐに察知できた。
乾いた砂漠に住む生物は、強い熱と日差しから卵を守るため、少しでも日差しを避けられ、じめじめとしたところに卵を産もうとする。
人間の体などその産卵場所としてはうってつけではないか。

卵を含みパンパンに膨れた管が、レナの薄く彩られた唇に乱暴に割り込む。
懇親の力をこめて、彼女はそれを食いちぎった。

「お前達の卵なんかっ…!」

けれどちぎられたそこから管は再生し、再びレナの唇を割ろうと執拗に彼女の頬で蠢いた。
ぬるぬるとした感触と何とも言えない嫌な臭いにレナの感覚は次第に狂いだす。
しかし口を開くことだけはしなかった。

そのうち管も諦めたのか、押さえつけていた力がなくなり、レナはやっと一息つけた。
殺されないのなら何とか逃げるチャンスはあるはず、何とか気力を振り絞り足に力を入れるが動かない。
それどころか彼女の目の前で徐々に、その白い脂肪の乗った腿が広げられていく。
闇の奥から膨れた卵管がその間ににゅっと伸びてきた。

 まさか。

その予想を組み立てきる前に、卵を噴出した管がぐりぐりとレナの秘唇を抉った。

「っひぎ…っ。」

経験のない部分に、触手は自らの吐き出した粘液を潤滑にして、徐々に彼女の体に入り込む。
痛みと予測のつかない恐怖、何かを裏切るような背徳感。

「いや…っ助けてぇ!バッツ、…おね…さっ…!!

助けなどこない、それでもレナは叫ぶしかなかった。
開いた口に別の卵管が卵を撒き散らす。

「…おと…ぅ…様………。」

何時の間にか彼女の奥深くに入り込んだ管からはどくどくと卵が吐き出されたいた。
産卵は彼女の子宮がいっぱいになるまで続けられた。





それからどれくらい経ったのか、いまだ触手に捕らえられたまま、レナは、涙を垂れ流す見開いた光のない瞳で腹の辺りを見た。
むずむずと妙な違和感が腹から膣口へと下がっていく。
ぽとりと子供のこぶしのような赤黒い何かが落ち、きちきちと小さな触手を伸ばしだす。

 レナの生んだはじめての子供。

しかし今の彼女には『ただそこにある光景』でしかなかった。
痺れた体は痛みも快感も命の誕生に喜びも感じず。
自分自身も『ただここにあるもの』なのだ。



その後二つの世界は滅茶苦茶に混沌し、崩壊する。
しかしもともと荒廃していた砂漠は案外何も変わらなかった。
その片隅、岩場の洞窟で、レナは魔物たちの聖母として生かされ続けることになる。


終わり