この世には天敵というものがある。
魔術師キリエにとっての耐魔剣士シャザがそうだった。
彼女の魔法のほとんどはキリエの全身の刺青が発生する対魔法障壁にさえぎられ、効果を発揮できなかったのだ。
そのシャザは死んだ。
残る強敵はあの針使いの魔術師だけのはずだった。
場所は森のはずれ。
森の種族、エルフ族の出身であるキリエには有利な地形のはずだった。
囲まれている!
キリエの発する弱い知覚フィールドに、かすかな人間の気配が接触した。
気付かないふりをしながら知覚フィールドを広げると、五人の気配があった。
魔術師の一般的な知覚フィールドのギリギリ外側に展開しているようだ。
キリエが優秀な魔術師でなかったら、あっさりと包囲が完成していただろう。
キリエは気付かないふりをしながら知覚フィールドに割く魔力を強めた。
傭兵と思われる気配の中に、忘れられない強力な力を持った気配がある。
あの人狩りのものだ。
奴隷商人自らの登場に、キリエは背筋が冷えるのを感じた。
ここは撤退すべきだろう。
キリエは包囲が完成していない一角へ向かって走りだした。
森の奥に向かっていけば、人間では彼女の動きにはついてこれないはずだ。
「気付かれたぞ!」
「回り込め!」
男達が叫ぶが、キリエに追いつけるわけもない。
キリエはかすかな違和感を覚えながらも走る。
何かおかしい・・・。
「!!」
何かが前方から放たれたのを、すんでのところでかわす。バカな。前方には何もなかったはず。
「エルフは森の中では慢心するというが、その通りだな」
この低い声は・・・。人狩り!?人狩りは、はるか背後ではなかったのか。
「隠形の術は、何もお前らだけのものじゃねえ。このおれだって使えるさ」
人狩りはロープは手繰りながらもキリエから目を離さない。
「くっ・・・」
自分の感じる違和感が何かわからないまま、キリエは攻撃魔法を編み上げる。
戦闘に深入りせずに、敵の隙をついて脱出するしかない。
・・・それが駄目なら、覚悟を決めて戦うまでだ。
「なぜ私が近付いているのがわかった?」
キリエはようやく疑問を口にした。
人狩りは口だけで笑いながら答える。
「針使いは用心深くてな。キャンプの周囲には探知の結界をかならず張っているのさ。そして、ヤツは一度あった人間の気配は忘れない、ってわけだ」
なるほど、最初から読まれていたというわけか。
ということは、背後で人狩りを装っていたのが針使いだろう。
勝ち目はうすい。
キリエは反転し、接近していた傭兵にむかって光の矢を放つ。
不意をつかれた傭兵はまともに浴びてしまう。
「うわっ!」
「ちっ・・・!」
キリエは傭兵の脇をすりぬけようとするが、腕を人狩りのロープに絡め取られていた。
驚くべき技量だった。
「へっへ・・・。これで逃げられねえぞ」
「そうかしら」
「なんだと?!」
「逃げられないのは、あなたも同じよね」
「!!」
キリエの右手に巨大な光球が生まれる。
「本来なら城門を破壊するのに使う術だけれど・・・」
「ば、ばか、やめ・・・!!」
ロープを腰につけ、剣を抜いていなかった人狩りは咄嗟に対応できない。
光球が放たれ、人狩りを襲う。
「うおおおおお!!」
光球に込められていた魔力が開放され、人狩りと、その脇にいた傭兵たちを襲う。
圧縮された空気と、その熱と轟音。
そして、おどろくほどの電圧が男たちをうちのめす。
効果範囲そのものも広くないわりに、発動までが遅いので通常の戦闘では使われることのない術だ。
本当に、巨大な怪物か城攻めに使われる術なのだった。
「ぐああああああ!」
至近距離にいるキリエのバリアが炸裂する魔力を遮断し、バリアの向こうにあるロープは一瞬で引き千切れる。
男たちの悲鳴が一瞬で途絶え、轟音の反響が森の中に吸いこまれていく。
「ふむ、今のはなかなかよい判断だった。今度は私の相手をしてもらおうか」
必死に魔力を練るキリエの背後から、あの男の声がする。
彼女の体に忘れられない屈辱を刻み込んだあの男の声が。
「本当ならお断りしたいところだけどそうもいかないようね」
「そのとおりだ。私を倒さないかぎり逃げられんだろうな」
その通りだった。すでに背後に残った傭兵たちが回りこんでいる気配があった。
「どうした。もう濡れているのか、小娘が」
キリエの頬が紅潮する。
男から放射される魔力に、体が反応している。
ほんの数日前まで絶え間なく彼女の快感をあおり続けたあの魔力だ。
媒介となる針が除かれても、体はまだ忘れていなかったのだ。
「く、くだらないことを・・・!」
「そうか?生命を生み出す力だぞ」
針使いから放射される魔力が強くなった。
「あ・・・!」
彼女の女肉がリアルな快感を伝えてくる。
まるで、あの針が今でも体に打ちこまれているかのようだ。
針の感触もまざまざと蘇ってくる。
一瞬で裸にされてしまったような不安感がキリエの胸を締めつける。
「くっくっく・・・。一応言っておくが、我がキャラバンの隊長殿は死んではおらん。グズグズしているとまた起きてくるぞ」
「わ・・・わかってるわ!」
キリエは一瞬にして火照ってしまった体に戸惑いながらも必死に術を編み上げていく。
乳首が、下腹の翳りが、全身の肌があわ立つような快美感を伝えてくる。
キリエの腕は鮮やかに手印を組み、口は呪文を唱える。
その動きには乱れがなく、美しくさえあった。
「ふむ、さすがだな。魔術のレベルそのものは私とそうは変らんかな」
「ふざけるな!」
光の矢の連撃。
そして、それにタイミングをあわせて光の槍。
貫通力に優れる攻撃魔法で、ほとんどの魔法障壁では完全な防御はできない。
少なくとも相手のバリアを破壊し、その強度を測ることができるはずだった。
「ほお?魔力そのものはありそうだな。豊かな才能だ・・・だが」
だが、光の槍は目に見えない壁にあたり、それを貫通できずに霧散してしまう。
キリエは唖然として魔術師を見つめる。
「・・・そんな!?」
針使いは余裕の笑いを浮かべる。
「実戦経験が足りんようだな。貴様の攻撃は予想の通りでしかない。それでは私には通用せんよ。いかに魔力が高くとも、それでは宝の持ち腐れというもの。ここはひとつ、私が指導してやろう」
「くっ・・・!」
お互いの使う魔術のレベルには大した差はない。
魔力では明らかに自分の方が優っている。
違うのは、技術だ。
この男は、バリアを一般の全面防御ではなく、予想される攻撃の瞬間、予想される位置にのみバリアを集中させている。
どうやってかは、わからない。
本来のバリアの使い方ではない、特殊なテクニックだ。
背面からの攻撃も可能な魔術師同士の戦闘では本来ありえない戦いかただ。
それだけ自分の技術に自信があるのだろう。
「まずは、小手調べといこうか」
男の周囲に瞬間的にいくつもの「ゆらぎ」が出現する。
複数の魔力の矢を同時に敵に打ち込む「魔力連弾」だ。
キリエは魔力障壁を強化すべく魔力を送り込んだ。
体内に魔力をみたし、次の攻撃のチャージを始める。
魔力の矢が、キリエの魔力障壁で砕け散る・・・!
が、十分な強度を持っているはずの魔力障壁が崩壊し、さらに魔力の矢のエネルギーがなだれ込んでくる!
すべての魔力の矢が一点に集中し、キリエのバリアを破ったのだ!!
「馬鹿な!」
キリエはやむを得ずチャージしていた魔力を開放し、魔力の矢の衝撃を吸収する。
針使いは肩をすくめてみせる。
「ほら、魔力の開放のセーブすらできない。バカが。今の術はただの「魔力の矢」のタイミングと軌跡を集中したにすぎん。使いこなせば、一発ごとのコントロールのできない魔力連弾よりもはるかに強力な・・・!!」
その時にはキリエは針使いの直前にまで迫っていた。
もとよりエルフである彼女は敏捷性においては人間より有利だ。
そして、彼女はライラから体術の手ほどきもうけていたのだ。
護身術というレベルを超える鋭い動きで針使いに迫る。
至近距離から、武器に魔力を込めて切りかかれば、大抵の魔力障壁を突き破ることができる。
対魔術師の戦いでは対通常攻撃のバリアを張ることは少ないからだ。
「もらった・・・!!」
勝利の確信とともに振り下ろした短剣がはじき飛ばされる。
肩までが痺れるほどの衝撃に姿勢が崩れるところを、何者かが腕を捕らえて引きずり起こす。
「いいタイミングだろ?兄弟」
「フッ。そろそろ登場かと思っていたが、おいしいところを持っていかれたな」
先ほどの術で弾き飛ばされ、意識を失っているはずの人狩りだった。
痺れた腕でふり払おうとするキリエを、あっさりと抑えこんでしまう。
体格にたがわぬおそるべき力だ。
キリエの心に絶望という言葉が浮かんだ。
これほどの力で圧迫されてしまうと、体内に魔力を満たす呼吸法が使えない。
この二人から脱出するのはきわめて難しい。
針使いは今度こそ彼女の体に徹底的な拘束と魔力封じ、そして快楽のわなを仕掛けるだろう・・・。
「思ったよりもキツイ魔法を使うんでな。お前に任せようかと思ったのさ」
「馬鹿をいうな。あんたならその程度のキズ一週間もかかるまい」
「あとでこいつをいたぶる楽しみを俺から奪うのか?」
男達は笑いあうと、気絶したりしている部下達の手当てをするとキャンプに向かった。
キリエは呼吸が満足にできぬように拘束され、悔し涙を目に貯めながらも後をついていくしかなかった。
生きてさえいれば、自分を見失いさえしなければきっとチャンスはある。
彼女はそう自分に言い聞かせ、苦しい呼吸の中で少しずつ魔力を練っていく。
ごめん、ライラ。あなたは無理しないで・・・。
「さて、どうする。針を打つか?]
針。
その言葉一つでキリエの体はうずく。
敏感な体のパーツに打ちこまれる針。
痛みとともに肉にすべりこんでいく針は彼女の体を狂わせる。
気脈に打ちこまれる針は、肉体に様々な影響を及ぼす。
麻酔、麻痺、強化、そして快楽・・・。
女肉の奥に打ちこまれた小さな針は魔法によってしか抜くことはできず、彼女はその時魔力を奪われていた。
今度こそ針使いは徹底的な施術を行うだろう。
それによって引き起こされる快楽に耐える自信は、キリエにはなかった。
「針か・・・」
女肉の奥に潤みを感じるキリエをよそに、人狩りは考え込む。
「三人もやられちまった。こいつにはお仕置きをしてやらなけりゃならん。気持ちよくさせてやる必要はないだろう」
「そうか?この小娘は拾いものだぞ。壊すのはもったいない」
魔術師はろくに身動きできないキリエの顎に手をかけ、顔を覗きこむ。
「キリエといったな、そういえば光の魔術士団の秘蔵っ子がそんな名前だったと聞く」
「ほお、そんなガキがか?」
「エルフだからな。小娘とはいえ、我々よりは年上だろう。それにしたって、我々をてこずらせるのだから、大したものさ」
「けっ・・・お目見えの名が泣くってもんだ」
針使いから放射される魔力に、体が敏感に反応する。
乳首が、肌が、下腹のしげみが、波が走るような快感を伝えてくる。
知らず知らずのうちに頬が紅潮し、呼吸が荒くなっていた。
「小娘が生意気に・・・そうだな、針はやめておこうか。クスリだけにしておこう。この女に残った魔力じゃ、あんたをどうにかすることはできんからな」
針使いが離れると、先ほどまでの快楽がうそのように静まっていく。
キリエは潤んだ目で男たちをにらみつける。
「お目見え・・・?」
エルフ娘の疑問に、男たちは顔を見合わせて笑う。
「知らんのか?魔王様の前に出られる資格のことだ」
「おれ達は、魔王様に何人も女奴隷を献上しているのさ。有名なんだぜ」
聞いたことがある。
魔王は特に有能なものにしか謁見を許さないと・・・。
「まあ、今回魔王様に献上できそうなのは、あの女戦士とシャザを殺した魔法戦士くらいだったんだが、こいつが自分で買うと言い出してな」
「くっくっく・・・あの女は、使えるからな」
針使いはにたりと笑ってみせる。
「それでは、私は戻る。そろそろあの女も限界だろうがな」
「ま、待って!彼女は、彼女は・・・!?」
針使いは目線だけをキリエに向け冷笑する。
「キズ一つつけておらんよ。肉体にはな。中身はどうか知らんが」
「・・・!!」
絶句するキリエの縄が強く引かれ、キリエは咳き込んだ。
「さあ、おめえはこっちでちょっとしたショーをしてもらうぜ」
「あっ・・・」
キリエはキャンプの中心、広場のようになっているところに引きずり出された。
その白い肌はすでに紅潮し、うっすらと汗ばんでいる。
先ほど鼻をつままれ、口をあけさせられたたところに不気味な液体を流し込まれたのだ。
おそらく媚薬だったのだろう。
大量に流しこまれた液体は、その量にたがわぬ効果をもたらしているようだ。
「っく・・・・ふうっ・・・」
腕を頭上に吊り上げるようにして縛られたキリエがうめく。
腕を上げているために若いエルフ女性の、豊かとはいえない胸が薄くなり、まるで少女のようだ。
白い肌に汗が浮かんでいる。
細くなめらかな脚は閉じることができないように拘束され、薄いしげみの中ではピンク色の花弁が息づいているのがわかった。
「はあっ・・・あ、う・・・」
あの馬車の中で快感をこらえていた時の感覚がよみがえっていた。
いや、あの時よりもさらに敏感になっている。
風の動きにすらうぶ毛が快楽を感じている。
だが、彼女に今快楽を与えているのはそれだけではなかった。
「あ、ああ・・・」
エルフの魔術士が身悶えするのを見物している男たちがいる。
男たちは酒を飲みながらキリエをはずかしめるのだ。
「くっくっく・・・あれでおれ達の相手がつとまるのか?まるでガキじゃねえか」
「そんなことを言っちゃ失礼だぜ、守備隊の幹部様だからな」
「違いねえ。そういわれて見れば、薄いおケケの下は立派な持ち物だ。お見逸れしましたってね」
いや・・・やめて・・・。
キリエは口に出せない言葉を押し殺す。
この男たちに哀願するのはいやだった。
「いやいや、あの薄い胸がたまらんね。子供とヤルみたいだ」
うそ・・・。
エルフとしては標準なのよ。
むしろ、人間達に混じって育ったから発育がいいって言われているくらいなのに・・・。
そんなこと言わないで・・・。
知らず知らずのうちに全身がほの赤く染まり、頬は真っ赤になっている。
かたくつむった目に涙がたまり、まつげに揺れて、光る。
その一方で女の器官は懸命にその存在を主張しているのだ。
なぜだろうか。
男たちの視線を、キリエはほとんど物理的な視線として感じていた。
初老の傭兵の視線が肩にうごけば肩にぬらぬらするようなねちっこい感触を、若い御者の視線が胸に向けば荒荒しい息吹を乳輪に感じた。
そして、下腹部から尻にかけてはずっと男たちの視線にさらされており、ぞろりとした舌が敏感な薄い肌をさぐり、意地の悪い動きをする指先が敏感な粘膜のひだを数えているのが感じられる。
時には薄皮にくるまれた肉粒もがその対象となってキリエの心を追い詰める。
ぴちゃっ・・・。
かすかな水音がした。
キリエの股間から雫が落ちたのだ。
ねばって糸を引いた液滴が内腿をすべる感触すらも身震いするほどの快感をもたらしている。
「あ、あ・・・」
人狩りは面白そうにキリエの様子を見ている。
女の魔術師は堕とすのにコツがいるが、彼にとっては逆に簡単な獲物なのだ。
魔術士の知覚フィールドは無意識のうちに働き周囲の意志や感情をさぐっている。
そして魔術士達の強力なイマジネーション力は、周囲の男たちの視線を現実のもののようにキリエに思わせるのだ。
感覚を鋭敏にされ、快楽への指向を肌の奥に埋め込まれたキリエは、己の魔術的才能の豊かさのゆえに、その魔術能力に応じた快楽を得ているとも言えるのだ・・・。
針使いの調合した薬は感覚を鋭敏にし快楽への志向を与えるとともに、精神に対してはキリエの意志力だけを集中して低下させる。
「それ、どうした。何かお股の間で光っているぞお」
「見られているだけで濡れ濡れよっ、てか」
男たちの野卑な声が意志の鎧を剥ぎ取られたキリエの心のを引き裂いていく。
そこから噴出すのは汚辱と屈辱の血潮のはずだが、今はじくじくと女の淫蜜が染み出してくるのみだ。
「あ・・・」
じわり。
男たちの声に反応したのか、なめらかな内腿に淫蜜の雫が一筋垂れた。
その冷たい感触がキリエをさらなる汚辱の深みに落としていく。
「おっ、垂れたぞ!」
「本当だ。また垂れてきている」
キリエは真っ赤になった顔をそむけて縮こまるばかりだ。
自分でもその部分がおどろくほどに濡れこぼれているのがわかっているが、続けざまの刺激にこらえることができないのだ。
なぜ、なぜこんなに感じてしまうの?
まるで自分の体でないみたい。
自分の心さえ思い通りにならないなんて・・・。
キリエは自分の魔術の能力そのものが彼女を追いこんでいることに気付いていない。
クスリによって意志の力を弱められたキリエは肉体と精神の間のフィルター・・・感覚を必要に応じて以下させる障壁・・・が弱まっていることにも思い当たらない。
男たちの視線はほとんど物理的な刺激と化してキリエの肌をなぞり、その快楽の茂みの中の泉への細い道をたどっていく。
乳房は時に荒荒しく、時には優しくもみしだけれ、なでられ、舌が這わされる。
キリエの無意識の知覚フィールドはきわめて正確に男たちの思考をキリエの脳裏に送り込む。
快楽への衝動と意志力の低下したキリエの心は文字通り男たちの視線を本物の刺激としてとらえるようになっているのだ。
優秀であればあるほど、女魔術師は堕ちやすい。
その意志力を奪い、快楽への指向をすりこんでやれば、勝手に深みにはまっていくことが多いのだ・・・。
もはやキリエの女肉はとめどもなく蜜を吐き出し、熱いぬかるみは彼女の股間全体に広がっていた。
すでに彼女の脳裏では周囲に多くの男たちが群がっていた。
繋がれた哀れな子羊の肉をむさぼる獣たち。
今のキリエは抵抗すらできずにただむさぼられるのみなのだ。
「おまえら、ちょっとした遊びを教えてやろう。この女は、お前らの視線を感じて濡れている。この女にとっては、お前らの視線は本物の手や舌と同じなのさ。クスリが効いているからな。そのつもりで、手を使わずにこの女を犯してみろ。面白いぞ」
人狩りのそんな声も、もはやキリエには遠く聞こえる。
もはや、言っていることはわかっても、それが心にまで浸透してくることはない。
「お頭、本当ですかい?」
「ああ、試しにやってみろ。手を触れずにこの女をイカせることができたら、褒美をやるぞ」
「へえ、そりゃおもしろいや」
「まずは俺からやってみよう」
年配の傭兵が前に進み出た。
不満そうに鼻を鳴らすものもいるが、年配の傭兵が恐いのだろうか。
何も言わなかった。
突然、内腿にザラザラとした感触を感じた。足がぶるぶると震える。
「ひっ・・・あ、ああっ・・・」
傭兵はにたり、と笑った。
「本当のようだな。おもしろい」
先ほどまでの漫然とした思考ではない、明確な志向性をもった思考がキリエの心に食い入ってくる。
「ああっ・・・いや、いや・・・!」
肉芽がみずから衣を脱ぎ捨て顔を覗かせる。
男の思考にキリエの肉体が反応しているのだ。
男の思考にそうように胸がゆれ、乳首が熱を持ってふくらんでいく。
先ほどまでとは比較にならないリアルさだ。
ついに女から悲鳴以外の声を引き出した・・・それは拒否ではあったが、紛れもなく牝の声だった。
男たちはこの新しいゲームに奮い立った。もとより、キリエほどの実力者をいたぶる機会は、彼ら一般のメンバーにはないのだ。
誰もがこのチャンスに、普段では手を出せぬ一級品の女を泣かせてみようと考えていた・・・。
「く・・・ふっ・・・うあ、や、やあ・・・」
キリエにとっては本当に体をいたぶられているのと変らない。
いや、ダイレクトに精神を犯されている分だけ快楽は深いかもしれない。
たとえ稚拙な愛撫しかできない男でも、イメージ力さえあればキリエを快楽に落としこむことができる。
その快感は彼女の肉体へとフィードバックされ、ふくれあがった肉豆はさらに男たちの視線をあびて立ち上がる。
だめよ!なんとかして肉体のコントロールを取り戻さないと。
このまま達してしまえば、その時の性のエネルギーの放出が大きすぎる。
そのまま男たちに犯されてしまえば、この体に魔力をとどめることもできなくなるだろう。
キリエは刃をかみ締め、顔を振りたくリながらも必死で耐える。
耐えることがさらに彼女の快感を押し上げていくことにも気付かずに。
ほっそりとしたキリエの体は今や全身が紅潮し、ヌラヌラと光る汗が白くなめらかな肌を覆っている。
目はうるみ、女肉はさらなる快楽をもとめてヒクつき、雄を奥へ奥へといざなっている。
「はあっはあっはあっ・・・!」
「ちっ・・・意外としぶといな」
「そろそろ俺の番だな」
「惜しかったんだがな」
男たちは入れ替わりながらもキリエを責め続ける。
そのかすかな間にもキリエは呼吸を整えようとするが、その間にも男たちの視線は彼女の胸を、首筋を、そして秘部をなめ上げるのだ。
すでに何度か切羽つまったところまで追い上げられている。
キリエの思考にはすでにかすみがかかり、ただこの快楽に耐えぬくことだけがあるようだった。
「うっ!?あああああああ!」
キリエが吼えた。
涙を流して体をよじる。
「おっ・・・何をやった?」
「試しにケツの穴を試してみてるんだ。後ろに回って見てみろよ」
「す、すげえ・・・手も触れていないのにケツの穴が開いていきやがる。
「やっぱりか。俺達の考えたことは、本当にこいつの体にも起こるんだ」
まるで何か見えない手でもそこにあるかのようにキリエの下半身はくつろげられ、尻の谷間の奥のすぼまりは口を開いている。
「見てろよ・・・」
突然キリエの体がはねるように痙攣した。
「ひっ・・・つ、痛う・・・」
キリエのやわらかな尻の丸みに、男の手形が赤く浮き上がっていく。
まったく音はない。
「へえ、たいしたもんだなあ・・・」
衝撃的な眺めに、男たちの興奮はさらに高まったようだ。
菊門への陵辱はシャザによっても行われていたが、このように衆人監視の前ではなかた。
比較にならぬほどの汚辱感と絶望感がキリエの胸郭をしめあげる。
だが、同時に牝の器官はさらなる苦痛と恥辱をもとめるかのように自らの肉層をさらけだし、肉粒は薄い、少女のような茂みの中に衣を脱ぎ捨てて立ちあがっている。
キリエは肉粒に外気が触れる心もとない感触に全身の皮膚があわ立つような快楽を感じていた。
苦痛を感じる器官も、快楽を感じる器官も本質は同じなのだと魔術の師匠は教えた。
体というのは、巧みに出来ていて余分なものはない。
いくつもの器官は複数の機能をもち、無駄な器官はないのだ。
神々は肉体というものを実にうまく設計し、作りたもうたのだと・・・。
そう、快楽を感じる器官と苦痛を感じる器官は同じなのだ。
キリエはそのことを実感していた。
どちらも命を守り育てていくのに不可欠なもの。
神々が効率的に作ったその仕組みが今キリエを追い詰めている。
痛みも、屈辱もすべてが快楽につながりうるのだ。
それを思い知らされたキリエは、さらなる恥辱の井戸を覗くことになる。
人狩りは面白そうにそれを見ている。
さすがに、魔術の素養のあるものは飲みこみが早い。
要は明確なイメージ力と意志の集中だ。
このゲームは、部下のうちから魔術の素質のあるものを見分けるのにもいいかもしれんな。
無味乾燥な魔術のテストも、これなら皆気合がはいるだろう。
人狩り自身は魔術師ではないが、魔術師との闘いのためにある程度の知識と技術はある。
だが・・・全てはキリエの魔術師としての素養の高さがあればこそ、だ。
無意識のうちの肉体コントロール。
ここまで完璧なものは相棒の魔術師にも聞いたことがない。
傷やあざまでも、これほど完全に再現するとは・・・。
光の種族の魔術師団の秘蔵っ子というのも、あながち嘘ではないのかもしれない。
素質については紛れもなく最高のものを持っているのだろう。
このエルフ娘がこれほど若くなく、経験不足でなければ針使いも危なかったかもしれない・・・。
思考だけで女を犯す。
犯すほうか犯されるほうのどちらかがが魔術師でなければ成立しない責めである。
そして、肉体を責めるのと違って精神へのダメージが大きいため相手を屈服させやすいという大きな特徴がこの責めには存在するのだ。
巨漢は満足気にキリエが喘ぐのをながめている。
思ったよりも簡単に屈服させられそうじゃないか。
エルフといっても、しょせんはガキか・・・。
コツをつかんだ男達の思考はさらなる具体性と迫真性をもってキリエを責める。
キリエの体はみるみるうちにあざや平手のあとで赤くそまっていく。
すでにキリエの頬から首筋までが涙で濡れ、乳首はぽっちりと赤くふくらんでいる。
みじめではあるが、扇情的な眺めだった。
「ひいっ・・・い、痛い!うあ、あああ!」
そう言いながらもキリエの薄い胸のふくらみの頂点はますますとがり、汗にぬめ光る肌は身もだえとともに牝臭をたちのぼらせている。
「それっ!イッてしまえ!気をやってしまえば楽になれるぞ!」
すでに男達は順番を忘れ、それぞれが思い思いのところを責めていた。
思考だけで女を犯すのはこの奴隷商人のキャラバンでも滅多にあることではなかった。
男達ははじめての経験にいきりたち、我を争ってキリエを犯す。
男達は目を血走らせ、中腰になってキリエを見つめ続ける。
傍目にはこっけいですらある光景だが、実際にはかなり陰惨なものだった。
そう、実際の陵辱ではありえない人数の男達が、しかも同時に、苦痛すらも快感になる状態の女を犯しているのだ・・・。
思考だけで女を犯す・・・。
やがて、男達も気付きはじめた。
ただ普通に「犯す」必要はないのだ。
そう、男達は自らのイマジネーションでキリエを犯すことができる。
そして、イマジネーションの世界には、想像力以外の制限は存在しないのだった。
「ひぐっ・・・う、う、うう」
キリエは困惑まじりの声を上げるが、それはすぐに悲鳴と化した。
「ひいいいいい・・・あ、あぐ・・・!」
キリエの菊門を何者かの舌が貫いた。
その舌はざらざらとした感触で彼女の肛門を押し広げながら、嘗めさすりながら奥へすべりこんでいく。
それは人間のものではありえない。
異常な長さと弾力、伸縮性とザラザラした感触でキリエの感覚に刺激を与えていく。
がくがくとキリエの腰が震え、涙がこぼれる。
「ひあ、あっ・・・はう・・・」
キリエの腰がガクガクと震え、汗と涙が流れ落ち、地面にポタポタと落ちる。
いや、そのしたたり落ちるしずくの中には彼女の女の器官からの蜜液も少なからずまじっているはずだ。
「う・・・ぐ、はあっはあっはあ・・・」
キリエはただあえぎ、身悶えることしかできない。
その体の内側をねぶりまわされる汚辱感は、同時に奈落の底に落ちていくような、浮遊感にも似た不気味な快楽を彼女に与えている。
後ろの感触に反応しているのだろう、女の器官はおどろくほどに大量の蜜液をしたたらせている。
キリエが身震いするたびに、しずくが糸を引いておちていく・・・。
「ひいい、やめ、やめ・・・いや、いやあああああ!」
目に見えないほどに小さいブラシが、彼女の薄い包皮にくるまれた肉粒を、全方向からしごきたてる。
包皮のひだの隅々までを、ありえない角度から刺激してくるのだ。
キリエの思考はうす赤い、ピンク色の霧に覆われていた。
色情の霧だ。
いけない・・・そう自分をいましめようとするが、自分を叱咤する声もどこか遠い。
もはやキリエを目をあけていられなくなっていた。
苦痛とも歓喜ともつかぬ表情であえぎ、うめき、悲鳴をしぼりだしていく。
そろそろか・・・。
巨漢はキリエを追い上げるべく、この遊びに加わった。
キリエの子宮口を嘗めまわすと、キリエは首をうちふって泣いた。
巨漢のイマジネーションの手は子宮内膜を内側から指でなぞり、つまみ、くすぐる。
「ひ、いい・・・いや、いや、いやあああああ!」
キリエはもはや恥も外聞もなかった。
その口は開かれたままほとんど閉じることもなく、ただ荒い呼吸音とあえぎ、そして悲鳴だけを搾り出す。
全身がおこりにかかったように震え、汗と淫液にまみれヌラヌラ光る肌はピンク色にそまっている。
もはや彼女の体の内と外の区別さえない。
彼女の肉体の全てが陵辱の対象であり、女肉のすべてが快楽の源だった。
女の肉体の全ての個所が恥辱の蜜にまみれ、異形の快楽を搾り出していく・・・。
「・・・?」
巨漢はかすかな違和感を覚えた。
キリエの反応がどこか違うような気がする。
どことはいえない。
キリエはすでに狂ったように悶え、うちふるえ、むせび泣いている。
とどめをさすばかりの状態のはずだ。
周囲の男達もキリエの狂態にさらに盛り上がり、思い思いの方法でキリエを犯しているはずだった。
実際に巨漢が意識していない部分をキリエは意識し、泣き叫ぶ。
あたり前の光景。
何が違うのだ?
巨漢は疑問をいだきつつもキリエを犯しつづける。
あまり続けると体力を消耗しすぎてしまうはずだ。
クスリの影響もあるので、余り消耗させるのは望ましいことではない。
巨漢は気を取り直してキリエを追いこんでいく。
巨漢の意識がキリエの意識に触れ、そのおぞましいイマジネーションをキリエの精神に送りこむ。
すると瞬く間にキリエのイメージ力はそれを再構成し、キリエの内臓感覚までも再現していく。
「う。ふ、う・・・・!」
キリエの下腹部がプルプルと震える。
恥丘のあたりを巨漢の意識の指がなでまわす。
それだけでキリエは切羽詰った声をあげる。
「あ・・・やめてっ!いや・・・あっああっ・・・」
キリエの反応に、巨漢は自分の違和感の正体を知った。
クリアすぎるのだ。反応が。
あまりにストレートで、遅滞がない。
これは今まで屈服させてきた魔術師などではなかったことだった。
それほどまでにキリエの才能がずば抜けているのだろうか?
巨漢は少々の驚きを感じながらもキリエの尿道口に意識を集中した。
すでに彼の意識の指の一本はキリエの腹中で活動し、彼女の膀胱を内側からさすっていた。
もとより先ほど大量に飲ませたクスリには利尿剤が混じっていた。
すでにキリエのそこはパンパンに膨れ上がっているのだ。
あとわずかで決壊するのは目にみえていたが、巨漢は屈辱の絶頂のうちに失禁を強制するつもりだったのだ・・・。
や・・・やめて!
それだけは、それだけは許して!
キリエは膜が張ったようにはっきりしない意識で叫ぶ。
すでに口からは力ない、そして切羽詰まったあえぎと悲鳴しかでてこないのに。
今や彼は膣内と直腸を舐めまわされ、口と菊門を犯され、膣肉を拡張させられていた。
乳首をすわれ、つままれ、ひねりあげられていた。
乳房をもまれ、尻肉をこねられていた。
首筋を舐め上げられ、わき腹をついばまれていた。
唇を吸われ、耳たぶを甘噛みされていた。
あらゆるところが陵辱の対象で、あらゆるところが快楽の炎を吹き上げているのだった。
そして、その中でキリエは一人呆然とする。
これほどの快楽、これほどの陵辱者、それと同数の女体と快感。
すべてがキリエの快楽であり、意識だったのだ・・・!
キリエはすでに意識も朦朧としているようで、その体はありえない方向からありえない快楽をうけ、悶え狂う。
あえぎ声も呼吸も切羽詰ったものだが、それ以上に奇妙なのはキリエを犯している男たちすらも目を血走らせ、全身におびただしい汗をかき、快楽のうめきをあげていることだった。
すでに男たちは一方的になぶっているのではなく、女を文字通りに実体あるものとして犯しているようだ。
人狩りの巨漢は唐突に理解した。
いつのまにか、彼すらもが快楽を感じていた。
そう、キリエと巨漢との間に魔力による精神のリンクが張られているのだ。
しかも、それはキリエと巨漢の間では一対一のようだった。
おそらく、他の男たちとの間でもそうなのだろう。
キリエは全ての男たちから一対一で犯されているのだ。
一人の女の意識が複数の意識として、陵辱者に相対している。
闇の性戯に通じた巨漢も聞いたこともない状態だった。
それほどの快楽か?
どれほどの消耗か・・・!?
巨漢は思わず寒気を感じた。
このエルフ女を壊してしまうのは彼の本意ではない。
さっさとケリをつけるべきだろう。
「あ、あ、ああああああああああ・・・!」
やがて、キリエは全身をガクガクと震わせて絶頂に達した。
痛いほどに勃起した乳首が、膨れ上がった肉豆が血流すらもその鼓動に刺激を感じる狂気じみた快楽の中で、女肉は喜びにうち震え、快楽にひれ伏し、屈服の甘い快感に酔う。
キリエは背中から犯されていた。
前から挿入されていた。
男のものを含んでいた。
胸をこねまわされ、乳首をなめしゃぶられていた。
すべてがキリエだった。
肉豆をつままれ悶えていた。
肉ひだのすみまでもしごかれて泣いていた。
子宮頚管を内側から拡張されながら狂っていた。
直腸粘膜をぞろりとした舌でしごかれ許しを請うていた。
膀胱を内側からついばまれて尿意をおさえきれないキリエがいた。
すでに半ば麻痺した快楽の中で溺れるキリエがいた。
すべてがキリエだった。
全てが陵辱者の行為によるものだった・・・。
キリエの絶叫は牝の声そのものだった。
高く、低く。時には細く。
その体は震え、女肉は蜜液を際限もなくしぼりだす。
存在しない手指で拡張された菊門からは透明な腸液をすらにじませている。
一旦快楽の絶頂に達したキリエの体をなおもまさぐる男達の意識。
キリエの女はその全てを求め、受け入れ、さらなる快楽をもとめていた・・・!
いつのまにか男たちの嘲りはなくなっていた。
もしかしたら全ての男達がこのゲームに加わっていたのかもしれない。
己の意志にかかわりなく、この場の以上な雰囲気に飲み込まれるかのように。
奇妙な静寂の中、男達が女をなぶる声と、女のあえぎ、男のうめき。
そして透き通るように澄んだ声ですすり泣き、悲鳴をあげ続ける、エルフ女の声。
時には途切れ、絶叫にかわり、時にはしゃくりあげる声にかわりる。
その全てが男たちをさらなる陵辱に向けて奮い立たせることも知らずに、女は鳴き続けるのだ・・・。
やがて巨漢が手を上げるまで、男達の一指も触れぬ陵辱は続いた。
キリエの股間からほとばしる水滴もおさまり、足元には黒々とした濡れた土が湯気を立てている。
男達の嘲笑の中、キリエは心の中の大事なものが崩壊した空虚さを感じていた。
なくしたのはプライドだけではない。
キリエは人間として、女としての尊厳を失ってしまったとさえ感じていた。
知らず知らずのうちに涙がこぼれる。
それを見ながらさらに囃したてる男達。
キリエはほとんど身動きすらせずに言葉もなく泣いていた。
己の直腸粘膜のひだのすみまでもねぶられた感触はキリエの内奥でおき火のように燃えている。
子宮内膜を、子宮口をくじられ、耳孔の奥までも犯され、その全てに狂ってしまった。
たとえクスリの影響があろうと、あの針使いの針の効果がえろうと言い訳できるものではない。
自分はたった今、人外の快楽に屈服し、人以下の存在になり下がったのだ・・・。
絶望と恥辱の海に沈んでいこうとするキリエを冷静に見つめるキリエがいた。
男たち以上の激烈さで彼女自身を罵るキリエがいた。
男たちの非道にうち震え、泣き崩れるキリエもいる。
これは、多重人格!?
その疑問さえも今のキリエには大きなものではない。
キリエの意識は心地よい、誰にも傷つけられない平穏な場所へと沈んでいった・・・。
笑い、はやし立てながら次の陵辱の順番を決める男達。
この男達はなおもキリエを陵辱するつもりなのだ。
巨漢の合図で、男達はキリエの拘束を解いた。
力なくくずおれるキリエの体を、腕を取って引き起こそうとする男達。
「気をつけろ!」
巨漢の警告が空気を割って響いた。
キリエを立たせた男達が怪訝そうな顔で巨漢に視線を向けるその下で、キリエの目が光る。
その瞬間、信じられないことが起こっていた。
男達が声もなく、膝をつき、音をたてて倒れこんだのだ、まるで冗談のようにあっけない倒れ方だった。
周囲を取り囲む男達が失笑したほどで、その様はむしろこっけいなほどだったのだ。
「てめえ・・・まだ痛い目にあいてえようだな」
巨漢だけは笑ってはいなかった。
キリエが急速に魔力を回復していたからだ。
拘束を溶かれたキリエの体は無意識のうちに魔術士の呼吸法で魔力を回復しようとしていたが、それは巨漢が目を見張るほどのスピードだった。
巨漢が前に出ても、キリエはくずおれた男達の間で身動ぎもしなかった。
涙がほほを流れ、細い髪は肌にはりつき、普段のキリエの様子は残っていない。
表情はむしろうつろで、意識を感じさせない。
「呆けやがったか!?」
巨漢が手を伸ばそうとすると、キリエの腕があがり、瞬間的に光の矢が放たれた。
巨漢は気力を体に充満させることによってダメージを軽減するが、ニの腕からは血がしたたっていた。
「ちっ!尋常じゃねえな!」
巨漢がとびすさり、持ち歩いているロープをキリエに放つ。
だが、キリエが手で何かを指し示すと、ロープは何か見えない壁にあたり、そのまま力を失ってだらり、と地面に落ちていく。
「卑怯ものめが、姑息な真似をする!」
キリエ自身もの知らぬ自分の声。
厳しく、冷たい声だった。
キリエはまるで傍観者の気分だった。
自分の体のような気がしない。
意識の分裂がおこっているようだった。
今からだを動かしているキリエは無駄のない動きで素早く術を組み立てていくが、すでに大切なものを失って絶望の沼に沈みこんでいこうとするキリエがここにいた。
魔力の回復は普段の数倍もの早さで行われているが、キリエはまるで別人のことのように感じていた。
「それがお前の本気というわけか」
巨漢はニヤリと笑った。
「よかろう・・・。おれ自らがやってやろうじゃねえか」
もう一人のキリエは笑ったようだった。
「おまえの一対一など信用できないけど、しかたないわね」
急速に回復しつつあるとはいっても、普段の一割の魔力もあるかどうか。
そんな状態でも、もう一人のキリエは冷静だった。
キリエはそれを他人事のような目で見ていたが、回復しつつある知覚フィールドに、なつかしい意識を感じた。
多くの男達の意識で濁った知覚フィールドの中に、清冽なエネルギーを放射する、なつかしい気配。ライラだ!
心の中で、むくり、と立ちあがったものがある。
それはおそらく希望といわれるものだ。
絶望と屈辱の沼に沈んでいこうとしているキリエの中から、また別のキリエが立ちあがったのだ。
ライラの気配からは暖かい力を感じた。
それはみるみるうちにキリエの胸郭をみたし、全身へと広がっていく。
「どうした?こねえならこっちから行くぜ」
巨漢の足がうなりを上げてキリエの首を狙う。
手加減など感じさせない、苛烈な攻撃だ。
「!」
キリエはバックステップでそれを交わすが、一瞬のうちに背中は冷たい汗に濡れていた。
あの沈着冷静な戦闘のエキスパートのようなキリエがいなくなっていた。
今のキリエは一人だった。
続けざまの巨漢の攻撃をかわしていくキリエ。
だが、消耗した体は鈍く、魔力の回復も思うように進まない。
先ほどの意識の多重化はなんだったのだろう?
キリエは快楽のあとの脱力感を振り払い、巨漢の手刀をかわし、その手首を打とうとするが間に合わない。
リーチが違うのだ。
「おら、おら・・・!」
巨漢はキリエの体術の程度を見定めたのだろうか。
なぶりにかかったようだ。
キリエは防戦一方になったが、もはやどうでもいいことだった。
今は、時間を稼げばいい。
たった今、ライラと合流した何者かの気配が伝わってくる。
はっきりとはわからないが、これほどのエネルギーを放射する人物はヒュームに間違いない。
キリエの心は歓喜で満たされていた。
「!?」
巨漢は戸惑っているようだ。
防戦一方のはずのキリエが笑みを浮かべたので、不審に思っているのだ。
今は、あの二人が脱出するまで時間を稼げばいい。
ヒュームとライラは、きっとこいつらを倒してくれる。
今は、ヒュームが少しでも回復するための時間を作れれば・・・!
「一つ提案があるんだけれど」
「なんだ?」
「私はあなたに勝つことはできない」
巨漢ははあ、と呆けたような声をあげた。
「でも、まだまだ抵抗できるし、周囲の彼らの戦闘力を奪うことならできる」
キリエは両の手に光を出現させた。みるみるうちに光が収束し球になっていく。
「・・・・・・!」
巨漢は無言だった。
キリエの魔力がもどっているなら、十分に可能なことだったからだ。
「もし私があなたの片ひざでも突かせることができたら、私を解放してくれない?」
「なんで俺がそんなことをしなけりゃならん。そうしたければ俺を倒せばいい」
キリエは徴発の笑みを浮かべてみせる。
「これ以上兵隊を失いたくないでしょう?・・・それとも、今の私でも恐いのかしら?」
巨漢は頭を振って笑った。
「何を考えているかは知らんが、うけてやろうじゃねえか。俺様が不覚を取るなんてことはありえねえがな」
「取引成立ね・・・!」
キリエは両手に形成されつつあった光の球を霧散させた。
もちろんハッタリだが、効果はあったようだ。
二人はお互いの体に力を蓄えながら相手の様子をうかがう・・・!
やがて、巨漢の攻撃がキリエの抵抗力を奪うが、それはすでに彼女の勝利のあとだった。
同僚であるライラや、魔法戦士であるヒュームが間近にまで来てくれていることがわかっていたから。
キリエは、耐えぬくことができたのだ・・・。
その後・・・
そして数年後、キリエは意識の複数チャンネル化を自分のものとする。
それは複数の魔法を自在に使いこなす驚異の技術のもとになり、キリエは光の勢力でも有数の魔術士として成長していく。
ついにはごく限られた天才・・・伝説上の人物の「複数魔法の完全同時行使」も成し遂げていくことになる。
キリエはその技術を弟子達に伝え、それは闇の勢力との闘いにおいて無視できない要素ともなっていく。
だが、キリエ自身はその技術をどうやって習得したかについて語ることはなかった・・・。
今日もキリエは街を歩く。
より美しく成長し、大人びたキリエはエルフとは思えないほど豊かな肉体を持つようになっていた。
あの時以来、キリエの体は何かのバランスが崩れてしまったのだろうか。
その体はエルフのしなやかさ、はかなさと、その細さとは不釣合いなほどに豊かな腰と胸、そして娼婦以上の淫らさを兼ね備えるものになっていた。
もちろん、光の勢力でも有数の魔術士であるキリエにうかつに無粋な視線を注ぐものはいない。
第一、「光の娘」とさえ噂されるキリエはエルフの潔癖さと光の魔術師の潔癖さを兼ね備えたといわれ、彼女は常にマントやケープを着用し、その肌を人にさらすことはなかったからだ。
その慎ましやかな衣装の下の体がどれほどの蜜を含み、熱く濡れそぼっているかを知るものはいない。
キリエは男嫌いでも知られ、公式行事にも最低限のものにしか出席しないほどだったから・・・。
キリエはあれほどの陵辱を受けながらもいまだ処女のままだった。
キリエの体に恥辱と快楽を刻み込んだシャザや針使い、人狩りの巨漢達はついに彼女の中に精を放つことはなかった。
それゆえか、キリエは処女にのみ許される魔法の行使もでき、それは彼女の名声をさらに高めていた。
キリエは今日も街角の小さな病院や寺院を回り、その力で病気の治療などを手伝っている。
だが、彼女の目的はもっと別のところにあるのだ。
街角でキリエを認め、ぼおっとなる青年。
青年はしばしキリエを見つめ、頬を赤くして立ち去る。
よくある光景であり、若者は周囲の苦笑いにこそこそと逃げ出していくことになる。
だが、誰が知るだろう。この一瞬でキリエと青年がどれほど濃厚な愛戯にふけっているか。
どのようにキリエが快楽の前にひれふし、青年に許しを請うているか。
それは時には最低の娼婦ですらしないであろう破廉恥な行為であり、人間ではありえないほどの恥辱にまみれた行為であったりする。
別に青年が常に淫らなことを考えているわけではない。
それはすべてキリエが送りこんだ想念に影響されたに過ぎない。
キリエの精神に関する探求はおそらく世界でも文字通りのトップクラスにあった。
キリエは一瞬にして他者の脳裏にセックスの濃密な記憶を組みたてさせることができる。
相手は夢の中のように、無意識のうちにキリエの思考に反応する。
その、相手によってアレンジされた欲望の記憶が、今のキリエの日々の糧だった。
もちろん、それはキリエの一面にすぎない。
キリエは同時にひどい罪悪感と羞恥心を覚えており、一瞬のうちに相手の記憶を消してしまうのだ。
それでも、相手はかすかに残った記憶の残滓だけで恍惚となり、中には射精してしまうものもある。
そんなとき、キリエは顔を真っ赤に染めて逃げ去るのだった。
その行為のあと数日間は自己嫌悪に苛まれるのだが、あまりに肥大した欲望はすぐにまた街へと彼女の脚を運ばせる。
罪悪感と恥辱を心の中に押し隠し、子供達に笑いかけながら・・・。
今日も光の娘、いや、最近は医神の愛娘、聖女などとも呼ばれるようになったキリエが街を行く。
誰もが会釈し、時にはふかぶかとおじぎをしていく輝かしい賛嘆の的。
平時には病院で慕われ、戦時には最強の魔術士の一人として闇の勢力の軍勢に立ち向かう。
誰もが恐れ敬い、時にはその脚にすがる光の勢力の最高幹部の一人。
誰が知ろう?
その清楚な外見の下に淫らな女肉がヒクついていることを。
誰が気付こう?
鋼鉄の魔女とも呼ばれる聖女の下着が乾くことのないことを。
キリエに接した男たちは、たまに軽く頭を振って会釈する。
失礼、と。
聖女が牝臭を振りまいているわけなどないではないか。
男達が戸惑う瞬間、キリエが破滅への期待に胸を高鳴らせていることなど、誰も・・・知らないのだ
終わり