巨道空二様
魔道嘗辱記 ダークファンタジー小説 第6~9話 捕捉

第6話 捕捉(1)


馬車は闇の中を進む。
馬たちには暗示が効いているようだ。
ヒュームは遅延の呪文を唱えると、笛を思いきり吹いてから放り投げた。
けたたましい音がするはずだが、全く音はしなかった。
特に儀式をしたわけでもないので、効果時間は数十秒だ。
突然響く笛の音は、どれほどのめくらましになるのだろうか。
その間にどれだけ移動できるだろうか。



馬車の内部ではキリエや最初に開放された女戦士が仲間達の拘束具を必死になって外していた。
あの牢番に犯されていた娘まで含め、馬車の中には全部で11人の女がいた。

「ほら、しっかりしなさい!脱出しているのよ」

しかし、半数以上の女達は体に力が入らない状態で、女戦士があきらめたように叫ぶ。

「ちくしょう。キリエ、みんなの「快楽の針」からなんとかしてくれ!縄やなんかは私が引きうける」
「あなたは?」
「私は後回しでいい。今必要なのは、この悪趣味なアクセサリーや「針」を外せる魔法使いだ。そいつらから頼む」

女戦士は力の入らない腕をもどかしそうに動かしながら、時には剣やナイフを使って拘束具を外していく。
さっそく魔法使いたちの股間の「針」に手を触れて呪文を唱えながらも、キリエは感心した表情で女戦士の動きを見ていた。

すごい・・・力がろくに入らないし、まだ快楽の「針」も効いているはずなのに・・・。
力だけじゃなかったのね。
ここまで完璧に自分の体をコントロールできるだなんて。

キリエは女戦士を軽く見ていたことを恥じた。



残念ながら、「針」をはずせるほどの術者はキリエとその妹弟子の二人しかいなかったが、やがて全員の拘束が外され、3人の快楽の「針」が外された。
しかし、ただでさえ敏感になっている体の、女の急所にも快楽の「針」はささっているのだ。
女戦士が拘束具の金具をはずす度に女たちはあえぎ、体に触れられるたびに歓喜の悲鳴をあげる。
馬車の中は女たちの嬌声で時ならずもにぎやかであった・・・。
それも無理はないかもしれない。
彼女達は今までひたすら快楽に耐えてきたのだ。
心のたがが一時的に揺るんでもしかたがないことかもしれない。
ましてや、今体に触れているのは敵でも怪しげな生物でもない、信頼できる仲間たちなのだから・・・。

「今のところは追っ手もかかっていないようだな」

一仕事終えた女戦士が座り込んだ。
拘束具のなくなった体には何もつけていない。
全員がほぼ全裸である。
かすかに息が荒いのは、仲間達の興奮が彼女も感じさせているのだろう。
鉄格子によりかかる際にかすかに甘いうめき声をもらし、自嘲的な笑みを浮かべる。
潤滑用の獣脂と縄などから作られた松明が一息ついた女達の顔を照らしている。

「こんなに灯りをつけて、大丈夫?」
「そう思うなら、後ろから見えないように体で影を作るさ」
「幌があるから大丈夫じゃない?」
「ふふ・・・」

誰からともなく笑いがもれたのは、余裕ができたからだろうか、それとも単に緊張がとけたからか。

「さあ、快楽の「針」をできるかぎり外していくわよ。それが終わったら、手足なんかの針は魔法はあまり関係ないから、自分で抜いてね。うまく取れない場合は、お互いにとりっこしてちょうだい。灯りが足りないから、注意してね」
「それ以前に、このオンボロ馬車じゃあ揺れがひどくてうまく取れないよ」
「大事なところに刺しちゃうかも」

冗談を言いながらも、女たちは時折外をうかがう。
追っ手の気配はないか、魔物の声はしないか。
手元にある武器はキリエがヒュームから受取った数本の短剣と弓矢しかないのだ。
不安はぬぐえない。
夜気の寒さに体を振るわせると、女たちはお互いの体に打たれた針を抜きはじめた。
女たちは時に悶え、快楽にうめきつつも針を抜いていく。
魔法の呪文が必要になる快楽の「針」は時間がかかるためなかなか進まないが、全身に打たれた「魔力封じ」や「力萎え」の針は手でも除ける数が多い。
しかも、今の女達でこの作業すらも蜜液で股間を濡らしてしまう状態なのだった。
媚薬の効果が斬れない今、まだしばらくは女達のあえぎはおさまりそうにない。



「ねえ、キリエ?あのヒュームって女、一体何者なの?」
「さあ・・・。ヒュームって名前も間違いなく偽名だものね。でも、たった一人でこれだけのことをして、命までかけているのは事実だわ。信用していいと思う」
「そうだな。真実がなければ、これほどの危険はおかせないだろう」

女戦士は「力萎え」の針をほぼ抜きおえたらしい。
みっしりと筋肉の張った量感のある肉体をキリエの隣に寄せる。

「もうしばらくしたら、あの女と御者をかわろうかと思う。疲れているだろうが、できたら私の「針」も抜いて欲しい」

女戦士はそう言うと、夜具の毛布を短剣で切り裂きはじめた。
衣服に仕立てようというのだ。

「こりゃあ、南方密林にいるという蛮族よりもひどいかもしれんな」

やがて、人数分の貫頭衣のようなものができあがった。
腰を締めるのは、キリエや女戦士の体を縛めていた、あの縄だ。

「まっぱだかよりはマシでしょう。この馬車だって、痛んでいるし、できれば靴も欲しいわね」
「そうだな。逃走に靴の有無は死活問題だ。余分な毛布で作れないか試してみよう。針と糸があればいいんだが」
「糸はないけど、例の針ならあるわよ。これを曲げて止められないかしら」
「やってみよう。焼きが入っていなければ・・・!・・・キリエ!」

さして早くなかった馬車の速度が、さらに落ちた。何かあったのだ。

「ええ、敵・・・のようね」

キリエはぶるり、と体をふるわせた。
この気配は・・・針使いと人狩り商人本人か!?



馬車が止まり、ヒュームの声がした。

「ここが目的地だったんだけど、先まわりされていたようね。・・・二頭立ての馬車を御せる人、お願い」
「私がやろう」

女戦士が馬車を降り、御者席に向かう。キリエも後を追った。

「ヒューム、そうする?」
「どうもこうも、正面突破しかないね。幸い、向こうも数は少ない。夜だったし、ここまで来れたのは7、8人のようね」
「いけるか?」

女戦士の緊張した声に、ヒュームは平然と答える。

「もちろん。私が時間をかせぐから、キリエは加速の法の準備をお願い。この先の泉から川ぞいに気脈の道がある。そこについたら、全力で行って。それから後ろの女の子で、弓や魔法が使える子は援護してちょうだい」
「私も行こう」
「ありがたいけど、あなた以外にこの馬車を扱える人は?」
「・・・いないようだな」
「そういうこと。オリの下に何本か弓と矢、それに毛布もあるわ。準備をして」

急がなければ、敵はさらに集結してくる可能性もある。
先手必勝でいくしかない。

「さあ、キリエはこれからが本番よ。これだけの重量物を加速の法で動かすのは滅多にない。サポートがいたら、お願いしておくことね」

手早く打ち合わせを済ませると、キリエは馬車の中にもどった。
妹弟子に呪文のサポートをさせなければならないのだ。
女戦士は深呼吸してからムチを手にとった。

「さあ、行きましょうか。あ・・・ごめんなさい。名前を知らないわ」
「かまわんよ。私のことはライラと呼んでくれ、ヒューム」
「よろしく、ライラ。この作戦はあなたとキリエにかかっているわ」
「違うだろう、あんたの力にこそかかっているんだ」

ライラは笑った。軽く馬にムチをくれ、馬車を走らせる。

「驚いたな・・・。これも魔法か?夜だってのに、恐がりもしない」
「そう。・・・今夜一晩は効果があると思うわ。ただ、エサはまだ少々あるけど、馬の分の水はないの。気をつけてあげて」
「・・・わかった」

馬車は再び加速し、前方に浮かぶ人狩りたちの火にむかって走りだした。


第7話 捕捉(2)


人狩り達は、全部で8人だった。
全てが武装し、馬にまたがっている。
それに対し、こちらは鈍足の馬車が一つと、弓矢が数本、それにまともに戦えるのは一人という状態だ。
ライラは肩をすくめてみせる。

「おいおい、手ごわそうだぞ。大丈夫か?」
「もちろんよ。すぐに半分になるから。ゆっくりといってちょうだい。急ぎすぎないように」

その瞬間、ヒュームの左右に十数個の光の矢が出現した。
裂ぱくの気合とともに、光球が敵の馬と、掲げられている松明に向けて放たれる!
数瞬ののち、4つの松明が吹き飛び、3箇所から悲鳴が聞こえる。

「す、すごい魔法だな・・・。キリエでもこうはいかないぜ」
「ふふっ。私の魔法はキリエの足元にも及ばないわ。これは、ちょっとしたテクニック」
「・・・あんたの言うことはどこまで本当なのかわからんよ、ヒューム」

小走り程度にまで速度を落とした馬車から、ヒュームが飛び降りる。
マントが風をはらみ、なめらかな肌に松明の灯りが鮮やかなコントラストを見せる。
蛮族の衣装を申し訳程度に身にまとった女の両手にはすでにいくつもの光の球が浮かんでいる。
ヒュームはおさえた声でライラに告げる。

「あまり先行しすぎないで」
「わかっている。離れたらおしまいだ」



人狩り商人が吼える。
もともと傭兵あがりの大男は脇に「針」使いの魔術師を従えて向かってくる。
泉の周りの平地には他に人影はなく、いくつかの松明が木の枝にぶら下げられている。

「シャザ!よくも裏切ってくれたな!」
「裏切ってなんかいないさ。シャザは三日も前に冷たくなってるよ!」
「ちくしょう!てめえ、シャザを殺りやがったなあ!」
「ハッ。そんなにあの女の後を追いたいか?」

そう言うとヒュームはさらにもう一発の光の矢を放ち、目をやられて混乱している傭兵を馬から引きずりおろす。
しばしのもみ合いの後男の悲鳴があがった。
ヒュームにしても手加減などしている余裕はない。
うかつなことをしていれば馬に蹴られてあの世行きなのだ。
なんとか馬をなだめて鞍にあがったが、馬に暗示をかけて扱いやすくしているひまはない。
人狩り商人はすでに間近にまで迫っていたその後方では馬から下りた魔術師が手印を組み魔法を発動しようとしている。

「今降伏すれば、命だけは助けてやるぜ!」

人狩りの鉤つき槍がうなりをあげる。
ヒュームの服に鉤をからめてひきずり下ろすつもりなのだ。
驚くべき膂力だ。

「ちっ!」

倒した傭兵の武器を奪っている暇はなかった。
ヒュームは有効な馬上武器を持っていないので、まともに打ち合うことはもとより考えていない。
馬首をひるがえし、反転する瞬間、ヒュームの腕がひらめいた。
数本の赤いかすかな光の筋が人狩りを襲う。

「うおっ!?」

それは赤熱した「針」だった。直撃が避けたものの、マントの一部がぶすぶすと煙をあげはじめる。

「きさまあ!」

人狩りはわめくと、馬を止め、マントを切り裂きはじめた。
ヒュームはそれを尻目に魔術師に向けて馬を走らせる。
間に合うか!?
ヒュームが赤熱の呪文を完成させようとした瞬間、鼻先に不気味な感触を感じた。
迷わず姿勢を崩し、馬の影に体を隠す。
突如として破裂音が響き、馬が凄まじい悲鳴をあげ、棒立ちになった。
ヒュームはその勢いで放り出され、かろうじて受身を取ることに成功する。
たまたま放り出されたところが草地でなければ、手痛いダメージをうけていただろう。

「たいしたカンだな。さすがに似たもの同士というところか?」

魔術師が賞賛しつつ、次の魔術の準備に入る。
ヒュームは素早く身をおこし、転がるようにかけだした。

「似たもの同士だと?」
「貴様の魔術のレベルは低い。そうだろう?」

ヒュームは唇を噛んだ。
見ぬかれていたか・・・。

「そのコントロール、タイミング、驚くべき技量だが、一つ一つの術はごく簡単なものだ。私以外の人間なら、光連弾と思いこんだかもしれんが、あれはただのタイミングをあわせた光弾だろう。すばらしいテクニックだがな。」
「時間稼ぎはムダだ!」
「ほう・・・さすがだな。ますます親しみがわいてくるよ」

ヒュームの足元には魔術師の魔力で草達がからみついて罠を作っているのだが、ヒュームの剣からほとばしる魔力がそれを切り裂いているのだ。

「私は君とは逆だ。魔術のレベルは十分だが、魔力の蓄積には不安があってね。それをテクニックで補っているのさ」

そう、先ほどの馬を襲った攻撃も、おそらくはほんの小さな真空をピンポイントに発生させたにすぎない。
真空の刃と同じ呪文だが、破壊力はほとんどない。
せいぜい、鼓膜を破壊する程度だが、その効果と必要とするコントロールとタイミングには目を見張るものがある。



魔術師は人狩りが戻るのを待っている。
それがわかっても、うかつな行動に出るわけにはいかなかった。
思っていたよりも手ごわい魔術師だ。
魔法では大人と子供ほどの差があるだろう。
剣の腕では全く逆だろうが、向こうにはまだ人狩りという戦力がある。
連携させるわけにはいかない。

「だから、針使いなのか」
「針だけじゃないがね。こんなこともできる」

かすかな音とともに、ヒュームのマントが切り裂かれた。
ヒュームは瞬時に魔力をマントにまで展開し、飛びすさった。
かすかな風切り音とともにヒュームのマントで何かがはじける。
相手の攻撃の手段がわかれば適切な対処ができるが、わからない状態では力技の防御にならざるを得ない。

ムダな魔力は使いたくないのだが・・・。

ヒュームは唇を噛みながらも目をこらし、意識を周囲の空間に広げる。
囲まれている!?
暗闇に慣れた視界に、何かが舞っている。
コウモリ?
手裏剣?
いや、これは生き物・・・
植物だ!

「草か!」
「その通り。この草の葉は人の肌を容易に傷つける。正しい角度と力、スピードで扱えば鋭利な刃物になる。・・・貴様には言うまでもないことだろうが。ここを戦場に選んだ時点で貴様らの失敗は決まっていたのさ。まあ、ここ以外に脱出成功の目はないだろうからな」

この魔術師は、こちらの作戦を見とおしている。
ヒュームの表情がいっそう厳しくなった。
選択肢は絞られたようだ。ヒュームは強行突破を試みることにした。
おそらく敵の魔術師にはパワーはない。
テクニックはあれど、よほどのことがないかぎり純粋な魔法による直接攻撃はしてこないだろう。
ならば話は早い。
魔術師に体当たりだ。
すでに人狩りは怒り狂いながら馬を駆っている。
迷っている時間はない。
ヒュームは魔術師めがけて地を蹴った。


第8話 捕捉(3)


「ヒューム殿、苦戦されているようです」
「それはそうだろう。魔術師とあの人狩りを相手にしているんだからな!彼女が一番の強敵を引きうけてくれているんだ。なんとしてもこいつらを倒し、援護に行くぞ!」

魔術師を人狩り以外の全てが・・・といっても、残りは3人のみだったが、馬車を襲っていた。
キリエとその妹弟子はすでに「気脈加速の法」のための精神集中を始めているため、戦力にはならない。
ライラは残りの女達を指揮して奴隷狩りを迎え撃つ。
敵の作戦はわかっている。
ライラを倒し、馬車を止めるのだ。



「寒いかもしれんが、幌を引き上げられるだけ引き上げろ。やつらは、私を狙ってくるはずだ。近付いてきたところを弓で狙え」

弓で狙われたら、防御する手段がないが、その時はそのときだ。
ライラは左腕に毛布を巻き付け右手には短剣を持って馬車を操る。
場合によっては一旦馬車を降りて戦うことも考えていた。
たとえ勝ったとしても、馬を失うわけにはいかなかった。
快楽の「針」が除かれていない今は、本当はできるかぎり戦闘は避けたいのだが・・・。

ライラは自分のみすぼらしい格好に苦笑いする。
かろうじて上半身は隠せているが、下着も靴も身につけていない。
少しからだを動かしただけで、布地にこすれた乳首がじんじんとうずく。

「うらあっ!」

さすがに手馴れた動きで傭兵達が斬りかかってくるが、予想のうちだ。
馬を捨てて乗りこんで来ようとするところを蹴りを入れ、姿勢を崩したところを短剣でなぎ払うようにして突き飛ばす。
肩や腰に触れる布地の感触すら甘い性感につながるのだ。
ライラの一瞬の遅れをついてもう一人が反対側から御者台に乗り移ろうとする。
しまった!この大事なときに・・・ライラは唇を噛み、自らを叱咤する。

「ぎゃっ!」

鮮やかな連携プレイでライラの背後に迫った男も、至近距離からの矢を打ちこまれてひるんだところをライラの短剣で追い落とされる。
残った一人は手ごわいと見たのか一定距離を保っていた。

「くそっ・・・こちらからは攻められんな」

ライラは目指す泉が目前に迫っているのを悔しそうににらみつけた。
一度は先行していたヒュームも馬を失ったため、すでに遅れ気味になっている。
いくらなんでも追っ手をつけたまま逃げるわけにはいかないだろう。
ライラの逡巡を感じたのか、ヒュームの声が鋭く響いた。

「迷うな!行け!その位置なら間に合う。敵は追いつけない!」
「あ、あんたはどうする!?」
「私にはまだやることが残っている。気にするな」

ライラは唇をかんだ。
ヒュームは二人の強敵を引き付けるつもりなのだ。

「キリエに合図をしろ。気脈加速の法を発動せよ、と」
「そんな!ヒューム殿が・・・」
「私もつらいが、彼女を信じる。おまえも信じろ。やることがある人間は、簡単には死なない」



極度の精神集中にあったキリエは、なんの疑問もなく「加速の法」を発動した。
キリエの体が薄く光、その光はみるみるうちに広がり、馬車全体を包んだ。
そして、馬車はみるみるうちに加速を始める。
すでに馬車の下の道は数十センチ下にあり、馬車は薄く光る光の道の上を走っていた。
気脈の流れと同調しているのだ。

「すごいな。初めて見る」
「ええ・・・キリエがつらそうですけど」
「そばについて、皆で円陣を組んでやれ。確か、それだけでもキリエ達の消耗を抑えられるはずだ」

やがて、背後から巨大な波のうねりのようなものがやってきて、馬車はさらに加速した。
いくつもの気脈の分岐を、キリエは無意識のうちに選択していく。
森を走る気脈を本当に理解できるのはエルフの魔術士だけなのだ。

「キリエが、涙を流しています」

わかっていたのか。
ライラはうなだれ、左腕に巻き付けたままだった毛布を握り締めた。
許せ・・・。



泉にはまだ大きな波紋が残っていた。
ヒュームのマントが水に浮いている。
無数の切り裂きにマントとはいえなくなっていた。
ヒュームの手にはすでに剣もなく、全身にも力が感じられなかった。

「ぐ・・・はあ、はあっ、はあ・・・」

ヒュームはもがき、なんとか水面に顔を向けることに成功した。
しかし、すぐに人狩りに水の中に沈められてしまう。
ヒュームのマントに人狩りの鉤つき槍がからめられているのだ。
もがくと、手足のアクセサリが水中で澄んだ音をたてる。

「ふん、化粧が溶けてまだらになってやがる。しょせんニセモノか」
「まあ、鎧もなしによくがんばったというところか」
「けっ。しょせん女よ」
「そう言うな。最後に全魔力で仲間達の逃走ルートをかく乱するなど、見上げたもんだろう」
「だが、おかげでせっかくの高額商品は水の泡よ」
「そうでもない。私がこの女を買い取ろう。あの女達4人分の値でどうだ?」
「たかが女奴隷にか?物好きだな」

人狩りはすばやく計算し、あっさりとうなづいた。
闘技場に売るよりもはるかにいい値のはずだ。

「奴隷だけじゃない。この女はあのシャザを殺しただけじゃなく、私達の手を焼かせてもいる。私の護衛兼実験材料として役に立ってもらおう」

やがて、ヒュームの動きが鈍くなった。
水も飲んでいるのだろう。
化粧もほとんど落ち、衣服もろくにつけていない若い女の肌が明らかになっていた。
素顔に似合わぬ蛮族の衣装やアクセサリが哀れだ。
髪の色も落ち、白い肌にまとわりつく銀髪が痛々しい。

「けっこういい眺めになってきたぜ。少々筋肉がつきすぎだが、これはこれでよかろう」
「ふむ、そろそろよかろう。あげてくれ。針をうつ」
「ああ、いつもよりキツくやってくれ」
「言われるまでもないさ」


第9話 捕捉(4)


「なんだよ。まだ怒っているのか?」
「私自身にね」

キリエは最後になったライラの快楽の「針」を抜いていた。
敏感な場所に深く収められているため、普通の方法では取ることができない。
キリエは呪文を唱えながらゆっくりと針を浮かせていく。

「く・・・」

さすがに、ライラも甘い声をもらす。
キリエはこの針を抜くときは泣いた。
他の娘達は快楽と苦痛に泣き叫んだものもいる。

「うわあ、実際に外しているところって、すごくいやらしい」

いつの間にか、他の娘達が集まってきていた。

「こら、バカ、見るな」

あわてるライラだが、今の状態では身動きもできない。
馬車の影での作業だが、他にはさえぎるものもない。
ライラは上気した頬を隠すかのように顔をそむける。
平静を装っていても、荒い呼吸が彼女の快楽の程度を知らせていた。

「ライラ、かわいい」
「バカ言ってるんじゃありません。ライラが一番つらいはずなのに、他のみんなに順番を譲ってくれたのよ」

キリエがさすがにたしなめる。
そう、すでにライラ以外の女達は全てのアクセサリと針を外されていた。

「ごめんなさーい」

さすがにやりすぎたことを感じたのか、娘達はそれぞれの作業に戻った。
靴や弓矢作り、食料集め。やることはいくらでもあるのだ。
着ているものは蛮族さながらだが、少なくとも捕虜でも奴隷でもない。
一夜あけてからの娘達は溌剌として、キリエやライラが驚くほどだ。

「わ、私の威厳が・・・」
「バカね。みんなわかっているわよ。今のだって、本当はあなたが心配だから様子を見にきたのよ」
「くっ・・・」

ライラは赤らんだ顔のままそっぽを向いてしまった。
キリエはライラを刺激しないように、慎重に針を抜いていく。
ライラはかすかに肌をふるわせながら、口をつぐんで耐えている。

「しかしさすがねえ、ライラ」
「何がだ」
「他の娘は快楽の針は一本か二本だけ。私でさえ三ヶ所。ライラだけなんと五ヶ所だもの。よっぽど恐れられていたのか、不感症に思われていたのか・・・」

ライラは真っ赤になっていた。

「キ、キリエ。人が動けないと思って・・・あとで覚えていろよ!」

キリエはにっこりとわらってライラの乳房を撫でる。

「ひっ・・・」
「まだしばらくは敏感ね。あのライラが私の下で硬くなっているのって、ちょっと快感かも」
「お、おまえ・・・」

ライラが体を震わせているのに、キリエがふきだした。

「あはは、ごめんね、もう終わっているの。もう動いても大丈夫よ。気付かなかった?」
「こ、このやろ、許さん!」
「ちょ、ちょっと・・・」

ライラはキリエを一瞬で引き寄せ、抱きしめていた。
そのままキリエの耳に唇をよせ、ささやき声で尋ねる。

「ヒュームは、ダメなのか?」
「多分。・・・最後の波、覚えてる?」
「ああ、あれで私達はさらに加速した」
「あれ、ヒュームの魔力なのよ。ただでさえ連日の私の治療で疲れているはずなのに」
「・・・!」
「そのあとの戦闘だってそう。ヒュームは決して高レベルの魔法は使わなかった」
「そうまでして温存していた魔力をあんなに一気に開放したのよ。しかも、その時人狩りも魔術師も健在だったの」
「そうか・・・」

ライラは腕の力をゆるめた。

「あれが、多分私達の足取りを隠してくれたのよ」
「ヒュームはまだやることがあるといっていたが、やはりそのことだったんだな。彼女はその先のことを心配していたよ」
「そう・・・」

二人はしばし無言で、背中あわせに黙り込んでいた・・・。



亜人達の荒い息づかいが夜の闇に吸いこまれていく。

「早ぐ回せ。時間、今日じかない」
「わがってる。少し待で」

亜人達が一人の女に群がっている。
口を、胸を、手を。股間はもとより、全身の肌に亜人達の肉体がすりつけられ、さしこまれ、しごかれる。
手足の力を奪われた女はその全てを受けとめ、吸いこんでいくのだ。
かつてシャザと名乗った女は一晩だけ亜人達の慰み者として与えられていた。
体に傷をつけなければ、何をしてもいいという条件だった。
久し振りの女体に、亜人達は飽くことなく女肉をむさぼっていた。
媚薬を与え、快楽に敏感にした上で、亜人達の慰み者とする。
気丈な女性のプライドを粉砕するのに、人狩りがよく使う方法だった。
女の精神が弱いと一度で商品価値を損なうことがあるので、滅多に使うことはないのだが、シャザに惚れていた人狩りの意趣返しかもしれなかった。
女は全身に打たれた針によって抵抗力を奪われ、快楽を引き出されている。
大抵の女は屈辱の涙を流し、泣き叫び、懇願する。その光景を酒の肴とすることも多かった。

「う・・・っふう・・・」

女のうめきが亜人達を喜ばせる。
女の動き、声、感触、すべてが久し振りで、しかも極上だった。
亜人達は狂喜した。
女のあえぎも、悲鳴も、全てが亜人達の獣欲を刺激していく。
女は口を、舌を、肛門を、およそ考え付くところ全てを汚されながらも、意識を保っていた。
快楽と屈辱に目は潤み、粘膜は充血していたが、その思考力は今だ健在だった。
少しでも肉体がダメージを受けないように、生命エネルギーを奪われないように。
女の体は巧みに動き、自分を守っている。
女が協力的であると勘違いした亜人達は歓喜していたが、女はむしろ亜人達を自分の肉体の虜にしようとしているかに見える。
通常の数倍もの快楽の「針」と媚薬は、並みの女では精神に異常をきたすだろうほどの量だが、女はまだ屈服してはいなかった・・・。



続く