A-MEN様作
聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 騎士と王女の物語 外伝

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその1」(第107話)


 宮殿には温泉が注ぎ込む大きな浴場が有った。後ろに山脈を抱え込む宮殿の下に水脈が在るだろうとフェリシアが井戸を掘らせたら偶然温泉が湧き出したからだ。湯量は豊富で宮殿周囲の町まで潤している。

 幾等皇帝の愛人でもエリスは帝国の騎士であった。従って執務は多く、何時も帰りは遅い。だから普段フェリシアは風呂に入る時、侍従を二人ばかり従えて入るのだが、当然の事ながらエリスが早めに帰って来ると一緒に入る事になる。勿論エリスの意思に一切関係なく・・・・・



 浴場の洗い場で腰掛けたエリスの髪を後ろからフェリシア流している。洗われているエリスは、とても居心地が悪そうだった。

「エリスの髪の毛って綺麗よね、まるで透き通るみたいな金色なんだもの」

 そう言って丁寧に髪を梳かすフェリシアを見て、後ろで侍従達がクスクス笑っていた。昔は「それは私達の仕事です!」とか「殿下(当時)自ら臣下の身体を洗わなくても・・・・・」と言って皇女だったフェリシアにエリスの身体を流させない様に言っていたが、最近は諦めてフェリシアの望む侭にさせていた。
最も昔からフェリシアに何を言っても無駄だったのだが、むしろ数年程、この様な状況が続いてるのに当のエリスがフェリシアに身体を洗われる事に慣れなかった。真面目なエリスは主君に身体を流させる事に抵抗を感じているのだ。

「ハイ御仕舞い。如何したの?そんなに堅くなっちゃって?」

 解っているくせに聞いてくる。

「臣下の私が主の陛下に身体を流させるなど、恐れ多い事です。身体くらい自分で流しますから今後は・・・・・」

 それを聞いたフェリシアは当然の様に言った。

「エリスだって普段は自分の愛馬は自分で手入れをするでしょう?」

 流石にエリスも言い返す。

「そんなァ・・・私は馬と同じですか?」

「だって何時も私に乗られているじゃない?夜だけだけど・・・・・・・」

 エリスは唇を尖らせる。だがフェリシアは後ろからエリスに抱き付くと、

「怒らないでエリス、冗談よ。でも時間が許す限り貴女は私に身体を流されなくてはいけないのよ。私は貴女の身体を他人に触れさせるのが嫌なのよ。それとも私にヤキモチを焼かせて夜ハードに責められたいの?」

 コレにはエリスも言葉を失ったが、やがてドチラとも無く笑い出した。

「それに貴女は私の宝物よ!大事な宝石は自分で磨いて悦に浸るモノじゃない?綺麗な四つのピンク色の宝石を・・・・・・・」

 そう言って後ろからエリスのエリスの乳房を揉んだ。

「何するんですか陛下!止めて下さい侍従達が見ています!」

 しかしココで止めるフェリシアでは無い。

「先ずはコノ可愛い乳首!綺麗なピンク色でしょう?毎日私に吸われているのに全然黒ずんで来ないのよ」

 等々エリスはフェリシアの手を振り解くが、スグに取り押さえられてしまった。

「逃げるなんて悪い娘ねっ!貴女達、一寸コッチに来なさい!エリスの足を持ち上げて抑えるのよっ!」

 エリスは運が悪かった。今日のフェリシアに就いている二人の侍従達はエリスのファンなのだが少々意地が悪い娘達だったのだ。こんなチャンスを逃す筈が無い。

「申し訳御座いません。私達も気が進まないのですが・・・・・・・・・」
「ゴメンナサイ、陛下の命令に逆らう訳に行かないんです・・・・・・・・・」

 と心にも無い事を言ってエリスの両足を持上げ、エリスをM字型に開脚させてしまった。

「イヤァ、止めて下さい!陛下っ御願いですから・・・・・・」

 フェリシアは無視するとエリスの前に屈み込んでエリスの性器を左右に開く。

「イヤッ、イヤァーーーッ!陛下アンマリです!イヤアァァァァァァ!」

「貴女達も見て御覧なさい。綺麗なピンク色でしょう?毎日私に犯されても乳首と同じで色が黒ずむ事が無ければ、形も崩れないのよ」

 侍従の一人が口を挿む。

「でも乳首とあそこで三つでしょう?陛下最後の一つは何処なんです?」

 知ってるくせに言う侍従、フェリシアはニンマリ笑うと、

「エリスを四つん這いにしなさい」

 言われた通りにする侍従達、するとフェリシアはエリスの尻肉を押し開く。

「イヤっ!イヤですゥ・・・・・・・・・・・・・・」

 涙ぐむエリス、だが侍従の一人が言った。

「ココですか?確かに綺麗ですけどピンクと言うよりセピア色じゃあ?」

 フェリシアが笑う。

「甘いわね貴女達!見て御覧なさい、こうして開くと・・・・・・・・」

 フェリシアはエリスの菊花を更に押し開き、肛門の粘膜を外気に曝した。

「キャアーーーッ!」

 とうとうエリスが悲鳴を上げる。すると同時に侍従の二人が歓声を上げた。

「本当だ!開くと中は綺麗なピンク色!確かに“四つのピンク色の宝石”ね!」
「毎日毎日、陛下に犯されているのに・・・・・乳首もアソコもココも如何してこんなに綺麗なんだろう。」

 フェリシアが得意そうに自慢する。

「エリスは再生能力の強いエルフだからね。それもエルフの中でも最高位種族“エンシェント・エルフ”だから・・・・・」

 それは事実だった。エルフ族は元々寿命が長く再生能力が強い。そして一般的なエルフとダーク・エルフの他にも上級種や亜種が数多く存在し、中でもエンシェント・エルフは最も古くから有るエルフの原種でエルフの中でも特に能力が高い種族だった。知力・体力・魔力に精神力あらゆる能力が抜き出ており、ハイ・エルフの高い知力と魔力にダーク・エルフの体力と耐久力をパワーアップさせて兼ね備えさせた・・・正に天が二物も三物も与えた様な種族だった。低いのは繁殖力位である。

「元々エルフは長命でしょう?その上エンシェントは更に長命で、しかも美しい侭・・・と言うより若い侭で一生を終えるのよ。つまり衰える年代が無いのよ」

 侍従が羨ましそうな顔をする。

「だから再生力も強いのよ。人間なら一生残る傷跡も消えちゃうし、乳首や性器や肛門が黒ずんだり形が崩れる事が無いの。欠点と言えば・・・・・・・・」

 急にフェリシアがエリスのアヌスに指を穿って抉りぬいた。

「ヒャッ、ヤァーーーッ!」

 エリスが飛び上がる。

「幾等、犯されても身体が処女同然の所まで再生してしまうから、何時までもHに慣れない事ね?毎晩犯される度に処女から調教するようなモノだから、その度に泣いてるの。最も男や私みたいに“犯す方”から見れば初々しくて、キツキツの名器で、最高の身体なんだけど、恋人にするにも愛人にするにも妻にするにもね!」

 そう言ってエリスのアヌスを貫いている指をユックリと動かし始めた。

 風呂から上がると流石のエリスも本当に怒っていた。等々エリスは四つん這いの姿勢の侭、侍従二人の眼前でフェリシアの指に犯されて気をやってしまい、その全てを見られたからだ。

 確かに皇帝であるフェリシアの寝所には何時も侍従が居るから睦事の声は聞かれている。しかしベッドは天蓋から御簾が降りているので直に見られてる訳では無かった。今までフェリシアを怒らせた為に御仕置きとして人前で恥ずかしい事をされたがココまでダイレクトに人前で犯されたことは無かったのだ。

「陛下っ!幾等何でも酷過ぎます!こんな事は、もう二度としないで下さい!」

 怒って声を荒げるエリス、所がフェリシアに全く悪びれた様子は無かった。

「エリスも鈍感な娘ね。幾等私でも何にも無いのに、あそこまで悪乗りすると思ってるの?」

 ドキッ!途端にエリスが蒼く成った。不味い!何かフェリシアを怒らせるような事をしただろうか?恐る恐るフェリシアの顔色を伺うエリスだったが、案の定フェリシアは頬を膨らませていた。

「ホラ、忘れているでしょう?コレはヤッパリお仕置きが必要かしら?」

 その一言でエリスは立場が逆である事に気付く。だがフェリシアは表情を崩して微笑むと、

「冗談よ、それ程は怒ってないから・・・でも寂しいなァ、本当に忘れているの?」

 エリスは必死で思い出す。何か不始末をした訳ではなさそうだが、忘れられて寂しい事とは何だろう?フェリシアの誕生日ではないし・・・

「チョット!本当に忘れているのっ?だとしたらヤッパリ御仕置きが必要ねっ!」

 エリスは慌てだした。フェリシアは、うろたえるエリスの背中と膝の裏に腕を回すとエリスを抱き上げて寝室の在る塔の階段を登りだす。

「陛下に身体を運ばせるなど・・・自分で歩きますから下ろし・・・・・」

「御黙りなさい!そんな事より早く思い出すのです!もし寝室につく前に思い出せなかったら、本当に御仕置きしちゃうからね!」

 さあエリスはピンチに陥った。この螺旋階段を登り切る前に思い出せないと、何をされるか分ったモノでは無い。

「あの~そのぅ・・・・・」

 うろたえてる間にフェリシアは階段を登って行く。

「如何したの?階段もう半分も無いぞ~~~っ」

「そんな事、言われても・・・・・・」

 こんな風に抱き上げられては考える余裕も出て来ない。大体フェリシアはエリスより頭一つ分以上身長が低いのに、昔からエリスをこんな風に抱き上げるのが好きだった。人前ではばからず抱き上げられるので、エリスにとって相当恥ずかしい思いをして来たのだ。だがエリスの頭に初めてフェリシアに抱き上げられた日の思い出が浮かぶ。

「アアッ、思い出しました。今日は陛下に初めて御会いした日です!」

 フェリシアが残念そうに溜め息を吐いた。

「なによ~~~っ、御仕置きと称してタップリとエリスを虐めるチャンスだったのに~~~っ!でも思い出してくれて嬉しいよ。そう・・・・・今日で丁度8年経つんだね?エリスと知り合ってから・・・・・・」

 残念そうなフェリシアに向ってエリスはペロッと舌を出す。主君に対して舌を出すのは失礼な行為だが今日位は良いだろう。散々虐められた後なのだし、何より今日は二人の記念日なのだから・・・・・。

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその2」(第108話)


 それは8年前の出来事であった。聖都から遠く離れた田舎町の酒場で屈強な三人の兵士が一人の金髪をポニーテールにした少女を囲んでいた。尖った耳が示す通り少女はエルフである。だが袖を捲くったシャツとショートパンツを着た活発な姿で、レイピアを兵士に突き付けているジャジャ馬振りであった。
見ると床にも五人の兵士が、だらしなく転がっている。

「このガキがーーーっ!」

 兵士の一人が少女に剣を振り下ろした。が、少女はヒラリと剣を交わすと足を引っ掛けて兵士を転ばせる。しかも股間を踵で踏み躙ると言うオマケ付だ。

「御前達!何をしているのだっ!」

 何時の間にか酒場の入り口に身なりの良い騎士が立っていた。

「なんだ貴様は・・・ウグッ!」

 騎士の拳が兵士の顔面に減り込む。

「アヴァロン帝国聖騎士ガラハドだっ!貴様等、上官に随分な物言いだな!」

 途端に兵士の顔色が変わる。

「イヤ、この小娘が・・・グホッ!」

 もう一人の兵士も殴られた。

「口を慎め!この様な少女に八人掛かりで何をしているのだっ!恥を知れっ!!」

 兵士を怒鳴り付けると少女に向き合った。少女が身構える・・・が、到底敵わない相手と悟り、頬を冷や汗が伝い落ちた。剣を交えるまでも無く“全く隙の無い眼差し”と“体重が無い様な足運び”今まで叩きのめしていた兵士達とは比べ物に成らない力量を持っている。

 少女は、如何見ても13歳になっていないだろう。イヤひょっとすると10歳位かも知れない。エルフと人間は年齢の経過が違い、従って一概に比べられないが幼年期の成長は、それほど差が無い筈である。だが見た目が幼く細身の少女が自分と相手の力量を冷静に対比できる程、腕が立つとは信じられない話であった。偶々、目の前に立った騎士は相手が悪すぎたと言える。

 少女は死を覚悟した・・・が、行き成り騎士は膝を折り地面に肩膝を突くと穏やかに話し出す。

「部下の非礼を御許し下さい。奴等の顔を見れば悪いのは何方か見当が付きます。ただ出来れば事情を説明して頂きたいのですが・・・・・」

 少女は面食らった。年下の自分に対し、しかもこんな兵士達の親玉が頭を下げると思わなかったのだ。だが気を取り直すと威勢良く言い放つ。

「謝るのならシーナに謝りなよ!昨日、其処に居るゴロツキ共に襲われたんだ。酒場の女は皆、身体まで売ってる訳じゃ無いんだよ!」

 ガラハドはエリスを正面から見詰め聞いた。

「シーナ様は純潔を奪われたのですか?」

「犯されなかったけど逃げて・・・崖から・・・シーナは凄い大怪我でっ!」

 少女は泣き出した。騎士は立ち上がると、エリスの肩に手を置いて・・・踵を返すと外に出て行った。そして数人の兵士を連れて戻って来る。

「こいつ等を縛っておけ!この地区の隊長は何をやってるのだ。スグ呼んで来い!」

 少女は言った。

「こいつ等の隊長は、幾等訴えても・・・・・」

 ガラハドは少女に向って跪く。

「大丈夫です。今までの分も纏めて罪を償わせます。貴女・・・いえシーナ殿には全く申し訳無い事を・・・・・」

 少女は騎士に好感を持ち始めていた。少女は自分の父親の顔を知らないが、騎士であった事は聞いている。こんな人物だったなら・・・・・

「いいよ、アナタが悪い事した訳では・・・・・」

「イエ、一兵士の失態でも帝国全軍の責任です。この責任は必ず取ります。帝国の名誉にかけて、ところで紹介が遅れましたが私は・・・・・」

「ガラハド様でしょう?」

 ガラハドは微笑んだ。

「様は付けなくで下さい。ガラハドで結構・・・」

 少女も微笑む。

「じゃあ、私に敬語を使うのも止めて下さい。私はエリス・・・エリシア・ファルケンです」

「所で私の紹介は何時して下さるのかな?」

 エリスはビックリして振り向いた。気付かぬ内に背後を取られたのだ。だがその相手を見て更に驚く。気配を殺しエリスの背後を取ったのはエリスより更に年下の少女だったのだ。

「お・・・お嬢様、勝手に馬車から降りられては困ります」

 だが少女はガラハドを無視するとエリスの前にトコトコと歩いて来た。

「こんにちはエリスさん。私はフェリシア、アヴァロンの・・・とある貴族の娘です。貴女の、その強さと勇気と優しさを、私は尊敬します」

 コレが二人の出会いだった。

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその3」(第109話)


 その後ガラハドは兵士の隊長を呼び出して、その場で解任した。兵士達は逮捕され強姦の罪にて聖都で裁判を受けると言う。更にシーナの家に赴くと兵士達の狼藉を詫びた上で補償を約束した。

 エリスはシーナの家にガラハドを案内した帰り道、ガラハドから質問を受けた。

「少々込み入った事を聞くが、もしやエリスはエドガー様の?」

「おじい様を知ってるの?」

 ガラハドは頷いた。

「やはり・・・エエ、帝国騎士団に在籍してファルケンの名を知らぬ者は居ません。私はエドガー様に騎士にして頂いた様なモノなのです。それにエリスの父上・・・アランは騎士団では同期だったのです。エリスの剣はアランにそっくりで、このまま精進すれば近く私を抜き去るかも知れません」

 エリスは照れて赤くなる。

「そう言えば今朝一緒にいた女の子は?」

 ガラハドは少し考えると、

「詳しくは言えませんが、高貴な身分の御方です」

「フ~ン、お嬢様なんだ・・・・・」

 エリスが言うとガラハドが笑った。

「こんな事を言ってはイケナイのですが、お嬢様なんて“おしとやか”な方じゃ無いのです。避暑とは名ばかりでジャジャ馬ぶりに手を焼いた周りの者の夏休み代わりにフェリシア様を遠避ける様にフェリシア様の父上に泣き付いたのです」

 今度はエリスが笑う。

「じゃあ私と一緒だね。おじい様も“エリスを社交界に出せる淑女にするのは諦めたっ!”ってサジ投げたから」

「彼女は暫く、丘の上の屋敷に居ます。良かったら遊んでやって下さい」

 エリスは大きく頷いた。



 翌日、エリスはガラハドが言った事を理解した。エリスを上回る相当なジャジャ馬娘だったのだ。
 先ずフェリシアは馬車を引っ張り出すと町外れの湖まで飛んで行ったのだ。エリスは振り落とされない様にしがみ付くのがヤットだった。
そして男の子と一緒に泳ぎ、魚を釣って、野山を駆け回り、木に登る。上品なのは言葉と服装だけだった。

 更に夜になるとエリス達を連れ出し「お化け屋敷の探検」と言って廃屋を冒険する。エリスも普段男の子と遊ぶ事が多かったが、男の子達すらフェリシアの活発さに閉口した・・・だがエリスはフェリシアがとても気に入り、今ではエリスはフェリシアと名前で呼び合う仲に成っていた。

 そんなある日の事である。



 その夜フェリシアはエリスを連れ出し、村を流れる川の向うに建つ屋敷を探検する。この辺りで一番大きな屋敷だったが火事が有った様で建物は荒れ果てた上、家財道具が運び出されているので中はガランとしていた。お化け屋敷を連想していたフェリシアは少し不満そうだった。すると・・・

「フェリシア、こっちに来てみてよ!」

 エリスはフェリシアの腕を引き中庭に連れ出した。

「ウッワーーーッ、綺麗!」

 フェリシアは声を張り上げる。其処には大きな噴水とバラの生垣が何十にも張り巡らせた庭園だった。

「スッゴイ、凄いよエリスさん。これはバラでしょう?これが咲いたら、さぞ見物でしょうね・・・・・アレッ?でもソロソロ咲いても良い時期じゃ無いかしら・・・・・・・・」

 エリスは寂しそうに言った。

「火事が起きた時から咲かないんだ。おじい様が死んだ後、恨みを持ってた山賊が火を放ってね・・・・・最も一人で住むのに、この屋敷は大きいから、私は川向こうの別宅に住んでたんだけど」

 そう言って噴水の縁に座った。

「じゃあ、此処はエリスさんの・・・・・」

「私は・・・この屋敷で生まれたんだ。そして此処で育って・・・・・バラは死んだ父様が母様に・・・・・・・・・・」

 何時の間にかエリスは涙ぐんでいた。肉親を無くした時を思い出したのだろう。フェリシアは、そっとエリスの肩を抱く。

「ゴメンナサイ、何も知らないで貴女を連れて来て・・・悲しい事を思い出させちゃったね?」

 エリスが泣き止むまでフェリシアはエリスの肩を抱きながら、背中を撫でてくれた。エリスは不思議な感覚を覚える。エリスの母親はエリスを生むと同時に、この世を去った。エリスを生むのは危険な事は分かっていたが、授かった子供を殺す事は出来なかったのだ。
従ってエリスは一度も母親に抱かれた事は無い。なのにエリスはフェリシアに抱き締められると母親に抱かれている錯覚を覚えるのだ。

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその4」(第110話)


 それはフェリシアが村に来て15日後の事であった。村外れの聖都に続く橋が落ち男手が、其方に集中した隙を狙って山賊が村を襲った。

「お父様の馬鹿・・・ガラハドさえ居てくれれば、こんなチャチな手に引っ掛からなかったのに・・・・・・・」

 フェリシアが舌打ちする。今朝ガラハドが急の使いに呼び出され、代りの騎士が来たのだが、この男は橋が落ちると人手を総動員して川に向かった。フェリシアは川が荒れている訳でも無いのに橋が落ちるのは変だと言ったのだが無視されてしまう。

 思えばフェリシアも若かった。子供のフェリシアが幾等正しい事を言っても、大人は反って素直に言う事は聞けないのだ。それが無能な大人なら尚更である。

「でも、不幸中の幸だよ。フェリシアちゃんがアタシ等を避難させなかったら、今頃皆殺しにされているよ」

 宿屋の女将が言った。フェリシアは村に残った人々を必死に説得して裏山に有る洞窟に避難させたのだ。村の明かりは全て点けた侭、逃げる時も松明を持たないで明かりを灯さない・・・と言う徹底振りである。

「でも家に火が点けられてるよ・・・アアッ私の家がっ!」

 村人が悲鳴を上げた。幾等あの騎士が無能でも、この火を見れば異変に気が付くだろう。だが落ちた橋の所から村まで戻るのに数時間は必要だった。

「クソッ!」

 エリスは剣を握って立ち上がった。

「お止めなさい!一人では如何し様も無いでしょう?」

 フェリシアが怒鳴る。

「黙って見逃せるかっ!」

 エリスが怒鳴った。すると・・・・・

“パチーーーン”

 エリスは一瞬キョトンとした顔をした。そして自分がフェリシアに平手打ちを喰らった事を理解する。

「貴女は村人全員の命を危険に晒すのですか?」

「な・・・何で・・・・・」

 エリスは面食らった。

「山賊達は人が居るかも知れないのに村に火を放ってます。彼等は私達目撃者を皆殺しにする気なのです。村に来るなり盗む物が無い家には火を放った事からも間違いない・・・・・」

 エリスは驚いた。無邪気な少女にしか見えないフェリシアが自分より余程冷静に分析している。

「今、アイツ等は村人が総出で橋に向かったと思ってるでしょう。ならば奪うだけ奪えば村を出て行きます。もし貴女が出て行けば村人が隠れてる事が知られてしまう。そうなれば奴等は私達を捜し殺そうとするでしょう」

 エリスは歯を食い縛る。

「其処へ橋に行った人々が帰って来たら?騎士や兵士は別にして村人に被害が出ますよ。そうしたらこの村は如何なるのですか?」

 確かに男手の居ない農村は大変な事になる。フェリシアはエリスの肩を優しく抱くと耳元で囁いた。

「今は辛抱なさい・・・時が来るのを待つのです。この世界で無闇に突進する愚か者は・・・・・・・」

 フェリシアは村を見下ろして言った。

「滅びるしか無いのです!」



 程無くして山賊は戦利品を馬車に積み始める。落ちた橋と反対に在る山脈に向かう橋を渡る気だろう。フェリシアは村人に指示を下す。まだ幼いフェリシアだったが彼女の命令に村人は何故か逆らえなかった。ただエリスだけは何故かフェリシアに反発を覚える。年下のフェリシアが自分より正しい判断をした事が悔しいのだ。

「なっ・・・なんだーーーっ!」

 山賊が悲鳴を上げた。橋を渡りきった途端、村人が麦わらや薪を積んだ車を橋に押して来たのだ。油が染み込んだ麦わらは瞬く間に燃え上がり、山賊は村に戻れなくなった。更に先回りしたフェリシアは夢魔を召還して馬を眠らせる。これで山賊は自分で荷を担いで逃げるしか無かった。

「本当は山賊を眠らせたいんだけど数が多いでしょう?これで男達が帰って来るまで時間を稼げる!」

 フェリシアはエリスに言った。

「欲の皮が突っ張った彼等の事、きっと沢山の荷を担ごうとするでしょう。騎士達が来てからでも余裕で捕えられる!」

 フェリシアは満足そうに頷いた。だがエリスはレイピアを抜くと立ち上がった。

「チョッとエリス?何をする気!」

「私の村に火を放った・・・・・報いを受けさせる!」

 そう言って山賊達に切り込んでいった。

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその5」(第111話)


 山賊達は総勢50人近く居た。エリスは瞬く間に十人以上の賊を薙ぎ倒す。確かにエリスの剣技は本物で舞うように山賊達を切り伏せた。だが流石のエリスでも如何せん敵の数が多過ぎた。山賊の放ったボウガンを足に受け地面に這い付くばってしまう。

「このガキが調子に乗りやがって・・・・・」

 醜悪な顔をした山賊の親玉がエリスに戦斧を振り上げた。だがエリスが女なのに気が付くとエリスの髪を掴んで持上げる。そして胸元に手を掛けるとエリスの着衣を一気に引き裂いた

「エルフの娘か、丁度良い。タップリ楽しませて貰ったら、好事家に売り飛ばしてやる!」

 だが次の瞬間、親玉の口の中に岩の塊が飛び込んで来た。



「その汚過ぎる手を離しなさい!」

 その声を聞いて山賊の表情が強張った。だが腕を組んで言い放つフェリシアを見て、今度は山賊達は嘲笑う。当たり前である屈強な山賊達の前に立ち塞がったのは身なりの良い十歳にも満たないだろう小娘なのだから・・・・・・・・・

だが前に立ちはだかった山賊がフェリシアに殴り飛ばされたのを見て、笑った顔が凍り付いた。殴られた山賊は数メートル先まで転がったからだ。

「やれやれ、仕方の無い人達ね?なるべく生かして捕縛させたかったから手を出さなかったのに・・・・・・・・・」

 そう言うと人差し指の指輪を外す。それが魔力をセーブする指輪である事にエリスは気が付いた。

「死に方を選びなさい?焼き殺されるのがイイ?凍て付くのがイイ?それともカマイタチに切り刻まれたい?」

「ふざけるなーーーっ!」

 一斉に山賊は飛び掛った。が、空中で跳ね飛ばされる。

「それなら雷に打たれるって言うのは如何かしら?」

 そう言うとフェリシアの手から雷撃が迸った。



 まるで雷を帯びた群狼が走り回ってる様だった。ある者は武器で受け止めようとして感電し、ある者は逃げ様として背中から雷撃を喰らった。数分間山賊達の絶叫が辺りに響き渡る。やがて山賊は雷に打たれて全員気を失った。最も気が付いても自力では動けないだろう。死人が出ないのが不思議な位だ。

「アラ、結構しぶといじゃない?でも確かに簡単に殺すんじゃ生温いわ。死ぬまで強制労働の刑務所に送って上げる!」

 そう言うと山賊の頭を蹴り上げた。



「エリスさん!大丈夫?」

 フェリシアはエリスの所に駆け寄った。太腿に矢が刺さった侭でエリスは立ち上がろうとしてる。フェリシアはハンカチをエリスに咥えさせると、

「抜きますから歯を食い縛って下さい。」

 と言った。エリスがハンカチを噛むのを確認すると一息で矢を引き抜く。

「ハウッ!」

 エリスが呻くが、既に矢は抜けていた。フェリシアはドレスの袖を引き裂くとエリスの太腿を止血する。

 だが次の瞬間、フェリシアはエリスを押し倒し自分の膝の上に腹這いで寝かせると、エリスのオシリを思い切り叩いた。手加減の無い殴打は小柄なフェリシアに叩かれてるとは信じられない程、強烈だった。

絶え難い痛みがエリスの双臀に打ち付けられる。だがエリスは抵抗しなかった。何故叩かれているのか?誰が悪いのか?フェリシアは何を怒っているのか?全て分って居たからだ。

 やがて十数回叩くとフェリシアは手を止めた。

「馬鹿っ!殺されたら如何するの?エリスさんが殺されたら私・・・私は・・・・・・・・」

 立ち上がったエリスは、泣きじゃくるフェリシアを抱き締めると何度も謝った。

「ゴメン・・・ゴメンね・・・・・・・・」

 やがて騎士達の馬の蹄の音が聞えて来た

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその6」(第112話)


 此処で又してもアノ騎士が無能である事が立証された。駆け付けたのは聖都に帰った筈のガラハドだったのだ。

 ガラハドは空に映る火事の炎を見て引き返したのだが、更に何者かの襲撃である事を見越して橋が落ちた事を予測し、橋を迂回するルートで戻ったのだ。アノ騎士は更に数時間送れて駆け付けた。聖都に帰り次第、身分を剥奪されるであろう。

 しかしエリスにとって、そんな事は如何でも良かった。山賊達はエリスの生家にも火を放ち、それ所では無かったからである。



 思い出が詰まった屋敷が炎を上げて燃えていた。この様子では全焼は免れないであろう。振り返り皮肉な笑顔を向けるエリスを抱き締めるとフェリシアは言った。

「こんな時は・・・泣いて良いんだよ?誰も貴女を笑いなんかしないから・・・・・ネッ。」

 エリスはフェリシアの胸に顔を埋めると大声を上げて泣き出した。



 数日後フェリシアが聖都に帰る日が来た。ガラハドは、あの日の内にフェリシアだけでも聖都に帰したかったが、フェリシアは断固として言う事を聞かなかった。今日までフェリシアは進んで火事の後片付けや怪我人の看病を手伝っていた。勿論ガラハド達もである。

 聖都の・・・恐らくは貴族の娘なのに、進んで復興を手助けしてフェリシアは今では村の人気者だった。

 村の娘達が花束を持って来るとフェリシアはパッと明るくなった。だがエリスの姿が見えないと寂しそうな顔をする。

「ねえ、エリスはまだ・・・・・・」

 足の傷は思いの外深く、骨を砕いていた。再生能力の高いエンシェント・エルフでも半月は動けないであろう。

「それに、お屋敷が燃えたのもショックだったのよ・・・・・知ってる?あの娘、中庭だけは毎日の様にお手入れをしていたのよ。」

 そのショックはフェリシアにも計り知れなかった。フェリシアは何度もエリスを見舞っていた。病院の代りになった教会の一室がエリスの病室だった。だが訪れる度に、すすり泣きが聞えたのでフェリシアは扉の外からしか声をかけなかったのだ。

 フェリシアは馬車に乗り込むと村の人に手を振った。だが走り出した馬車が急に止まりフェリシアは窓枠に頭をぶつける。

「イッターーーイ!一寸、如何したのよ?」

 ガラハドも床に転がっていた。

「お嬢様、アレを・・・・・・」

 御者が指差した先には足を引きながらエリスが立っていた。

「何をしてるのよっ!未だ自分で歩いちゃ駄目じゃない!」

 フェリシアは馬車を飛び降りるとエリスに駆け寄った。その時エリスが杖の代りにしていた棒が折れてしまう。前のめりに倒れるエリスをフェリシアは支えながら叱る。

「何で貴女は私に心配ばかりかけるの?エリスさん、イイ加減にしないと怒りますよ!」

 フェリシアはエリスに肩を貸そうとした。だがエリスは丁寧にその肩を断るとフェリシアの前に両手を突いて頭を下げた。

「御願いしますフェリシア様!如何か私を貴女様に仕えさせて下さい!」

 フェリシアも騎士達も村人も驚いた。

「エリスさん・・・何を言って・・・・・・・・」

「エリスと呼び捨てにして下さい!」

 フェリシアの言葉が終わらぬ内にエリスは言った。

「私は父も祖父も騎士でした。でも私は今迄、人に仕えたいと思った事は無かったんです。勿論、尊敬していました・・・でも今日まで人に仕えたいと思う気持ちだけは如何しても理解出来なかったのです。でも・・・・・・・」

 エリスは顔を上げるとフェリシアに言った。

「フェリシア様に、お会いして父や祖父の気持ちが分りました。この人に役に立ちたい・・・この人に命を捧げたい・・・そう思ったのです。貴女様は何時か、この国を背負って立つ人物に成る・・・そう思えるのです。」

 流石にフェリシアも言葉に詰まった。どう言えば良いのか分らないのだ。

「フェリシア様に御仕えさせて頂けるなら小間使いでも馬番でも構いません。いえ奴隷だって・・・・・・御願いです。エリスをフェリシア様の奴隷にして下さい。」

 頭を地面に擦り付けるエリスを見て、ガラハドが苦笑する。その眼は「此処まで惚れられたのです。側に置いて上げなさい。」と語っていた。フェリシアは微笑んで頷いた。

「貴女に小間使いが勤まりますか?アレはアレで大変な仕事です。馬番は人が足りてますし、帝国で奴隷は違法です。私を罪人にしたいのですか?」

 エリスは泣きそうな顔でフェリシアを見上げた。

「エリス・・・貴女が私の傍に居たいのなら、私の“騎士”に成りなさい。」

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその7」(第113話)


 村人は全員驚いた。貴族でも勝手に騎士を持つ事は出来ない。独自に騎士を任命し持つ事が出来るのは王族に限られていた。この可愛らしいジャジャ馬娘が貴族である事は村人も理解していた。だが幾等“聖騎士”のガラハドが警護に付いて来たといえ、まさか王族だったとは思っていなかったのだ。

 だが流石にエリスは驚いていなかった。王族の・・・それも将来、政治に加わる人物だと見抜いていたからだ。

「アリガトウ御座います。しかし私ごときに、騎士が勤まるでしょうか・・・・・・」

 騎士と言う身分に躊躇するエリス、だがフェリシアは軽くウインクするとエリスに言った。

「いいのっ!黙ってなさい。」

 だがエリスは、この後フェリシアの正体を知って流石に驚く事になる。

「ガラハドッ、剣を貸しなさい。」

 そう言うと勝手にガラハドの腰から剣を引き抜いた。そしてその剣をエリスの右肩に乗せる。

「汝、エリスよ!我が剣と成りて敵を切り、我が道を切り開きなさい!我が盾と成りて敵を防ぎ、我が身を守れ・・・・・・・その命が尽きる時までっ!」

 そして剣を左肩に乗せ直し、声高らかに宣言した。

「我が名は、フェリシア・ウィン・ディ・アヴァロン・バルバリアス!その名において宣言する。今この時より、この者エリス・・・いいえ、エリシア・ファルケン・グリーンフォースは我が騎士である!」

 その時エリスに衝撃が走った。フェリシアの名前に含まれるディ・アヴァロンの意味を悟ったからである。村人は腰を抜かし、ガラハドはニヤニヤ笑っていた。

「で・・・では貴女様は・・・・・皇女殿下で、次期皇帝陛下の・・・・・・・・・・」

 流石にエリスも腰を抜かした。と言うより元々一人で動ける身体で無かったのだが・・・・・。

「アヴァロン帝国第二皇女、そして次代皇帝戴冠予定者のフェリシア・ウィン・ディ・アヴァロン・バルバリアスです。黙っていてゴメンナサイ・・・エリスも村の皆様にも、でも私は、皇女以前に貴女達と友達に成りたかったのよ。」

 そう言うと村人に頭を下げた。

「そうですよ!フェリシア様は皇女様ですが、それ以前に我々の友人です。」

 村人達も賛同した。嬉しそうに微笑むフェリシアはエリスに向き直ると意地悪そうに微笑んだ。

「さてと・・・エリス、貴女も私の友人だけど、それ以前に私の騎士ですよね?つまり私の臣でしょう?私の命令には逆らえないよね?」

 エリスは口をキュッと結ぶとハキハキと答えた。

「ハイッ、エリスはフェリシア様の忠実なる僕です。エリスの心も身体も・・・髪の毛一本まで殿下の所有物です。」

 それを聞くとフェリシアは行き成りエリスを抱き抱えた。“お姫様抱っこ”と呼ばれる抱き方で・・・・・。

「殿下・・・一体何を・・・・・」

「エリスに最初の命令です。私の大事な友人にして、大切な最初の騎士の身体!これ以上、傷に障らせる真似は許しません!大人しく私に抱かれた侭で聖都まで運ばれなさい!」

 エリスは真っ赤に成って反論した・・・が、

「エリスッ!私の忠実な僕が命令に逆らうのですか!」

 と叱られた。そう言われてはエリスは何も言えない。フェリシアは馬車の自分の席にエリスを座らせるとクスクス笑っている村人に言った。

「親愛なる友人の皆様、申し訳有りませんがエリスは私が頂いて行きます。どうか御気分を害されないように・・・・・・・」

 途端に拍手が沸き起こる。エリスは恥ずかしくて更に顔を赤くした。

「そうだ!チョッと待ってて・・・・・・・・」

 フェリシアは村の娘達の所に走ると物陰に引っ張って行った。なにやら相談か交渉をしている様だ。やがて村娘は“了解”と言うように指で丸を作る。

 フェリシアは馬車に戻ると何を話していたか気に成ってるエリスとガラハドに、

「ナ・イ・ショ!」

 と言って何も語らなかった。

「外伝 第1章騎士エリスと皇帝フェリシアの出会いその8」(第114話)


 フェリシアは一度寝室に入るとエリスにガウンを羽織らせて、今度は塔を下り始めた。勿論エリスを抱いてである。

エリスはフェリシアに「自分で歩きます。」と言ったが、「私の腕の中から勝手に降りて御覧なさい!中庭で全裸にしてマンイーターに襲わせるわよ!宮殿の娘達を全員集めてからねっ!」と脅されてしまう。大切な記念日を忘れていたのだ・・・機嫌を損ねたら本当にされかねなかった。

 二人は塔を下りると中庭に出た。宮殿の中心に建っている塔は前に宮殿本体、後は中庭に面している。しかし中庭は半年前から改装中で衝立に阻まれ、エリスは中を知らなかった。

 これは可笑しな話だった。第零近衛騎士団は実質フェリシアの私兵、親衛隊だったが、その名の示す通り元来フェリシアの警備が主任務の筈だ。当然エリスはフェリシア警護の全権を担っていて、警備のため宮殿内の改装、改築はエリスが管理していた。今回内容をエリスに知らせないのはフェリシアが見るなと命じたからである。

 マア、気にする必要は無いだろう。フェリシアの性格から言って無駄に贅を尽くした庭を作らないだろうし、警備に支障のある改装する程、愚かでもない。ただエリスにとって心配なのは、自分を責める大掛かりな仕掛など作ってないだろうか・・・と言う事である。幾等何でも其処までしないだろう・・・と思いながらも心配なエリスであった。

 やがて中庭の前に来た。フェリシアはエリスを抱き抱えた侭、声を張り上げる。

「衝立を、退かしなさい!」

 衝立が次々と前に倒れた。すると向うから薔薇の香りが立ち込める。衝立の向うから現れたのは、昔懐かしいエリスの生家の中庭だったのだ!

 大きな女神の彫像と女神の抱える水瓶から溢れる水。高く吹き上がる噴水に磨かれて鏡の様に反射する白石のタイル、そしてエリスの母が育てていた色とりどりの薔薇の生垣。

 エリスは驚いた。アノ庭を如何やって再現したのだろう?家は焼け落ちているし、当時を知る人も此処まで正確に覚えていると思えなかった。

 面食らっているエリスの後でフェリシアが語りだす。

「簡単よ、噴水は焼け残ったの。タイルやブロック、庭石と一緒に綺麗に磨いて貰ったわ。」

 
エリスはフェリシアに振り返った。その眼は溢れんばかりに涙を湛えている。
「でも・・・でも薔薇の配置や、それにこの薔薇は・・・・・・・・・・・」

 フェリシアは微笑むとエリスの耳元で囁いた。

「正真正銘、エリスのお母様の薔薇よ。この薄い青とピンクの薔薇二種類は新種だものネ・・・山賊に火を放たれた後、庭を手入れして貰ってたの。ホラッ、貴女が私の騎士に成った時、村の方に頼んでたでしょう?」

 フェリシアが怪我をしてたエリスを抱いて馬車に運んだ後、村の娘としていた内緒話は、これだったのだ。

「植物は例え焼かれても根が生き延びれば甦るのよ。花を咲かせるまで10年掛かったけど、如何かしら?薔薇の植えてあった位置まで・・・・・・・」

 エリスの両眼から涙が溢れた。

「同じです・・・何もかも、同じです。」

 そう言ってフェリシアに抱き付いた。

「泣かなくても良いじゃない?もう、エリスは泣き虫なんだから・・・・・」

 フェリシアもエリスの頭を撫で付ける。そして優しくエリスの唇を奪った。

「エリス、喜んで貰えたかしら?」

 フェリシアが問い掛けると、今度はエリスからフェリシアにキスをする。

「陛下・・・大好き・・・愛しています。陛下の為なら私は・・・・・・・・」

 エリスは、そう言うとガウンの前を自分で肌蹴る。

「陛下・・・大切な記念日を忘れていた。イケナイ私に如何か御仕置きをして下さい。」

 フェリシアはエリスの眼を覗き込むと、ドチラとも無く笑い出し・・・ゆっくりと抱き締めあった。