A-MEN様作
聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 騎士と王女の物語 第12章

「第12章 二人の怪しい修道女?! その1」(第93話)


アヴァロン帝国首都にしてアヴァロンの象徴である都“聖都アヴァロニア”緑が多い美しい街である。余裕をもって整備された区割り、裕福でない市民に開かれた公営住宅、国民が分け隔てなく利用出来る公共施設、世界で最も美しく活気溢れる街であった。

マア少し活気に溢れ過ぎ、騒々しいのが難点かも知れない。しかし今日は何時のも増して騒々しい!市内を第零騎士団と第二騎士団の騎士・兵士が総出で市内を走り回ってるのだから当たり前かも知れないが!

だが可笑しな事が有る。二つの騎士団を指揮してるのはガラハドだったのだ。第二騎士団は彼の配下だが、第零近衛騎士団の団長はエリスの筈なのに・・・・・・それに第零近衛騎士団は、本来エリスとフェリシア以外の者は、どんなに身分が高かろうと一切命令が出来ない“フェリシアだけの軍団”である筈なのだ。
例外はこの二人が不在の時である。それでも命令に従う訳ではなく、自発的に協力してるに過ぎない。

「見付けたかっ?」
「見付かりません!」

「居たかっ?」
「居ません!」

「捕まえたかっ?」
「絶対に不可能です!!」

漫才のような会話だが、言ってる方は極めて真剣である。朝から大騒ぎが始まって、すでに夕方に成ろうとしていた。全員がクタクタで、顔には疲れの表情が浮かんでいる。

それもその筈、フェリシアが教主を務める自然崇拝宗教の礼拝直後、エリスとフェリシアが姿を消したのだった。騒がない訳には行かない!

「全く陛下にも困ったモノだ・・・エリスだって止めなければ成らない立場の筈なのに」

ガラハドはボソリと呟いた。其れを聞いた第零近衛騎士団の女騎士達は言葉を返す。

「お言葉ですが、本当に陛下を止めなければ成らない時は、エリス様は身体を張ってでも止めますよ!それはガラハド様も御存知でしょう?」

「そうです!それに陛下だって必要無いなら無理して聖都を歩き廻ろうとなさらないでしょう。市井を直に見る事で、世情を読もうとしてるのです」

「マア陛下の楽しみを交えてらっしゃるのは否めないでしょうけど・・・・・・」

確かに其の通りである。現にエリスは間違いを犯さなくても、フェリシアに逆らって何度も虐め抜かれていた。サディストであるフェリシアのやる事である。恋人同士の事とは言え、ガラハドが同情する事は少なくなかった。
それにフェリシアも、そこまで無能な暗君では無かった筈だ。

「確かにそうだな・・・私の失言だった。許してくれ」

微笑みながら謝罪するガラハドだった。器の大きさを見せ付けるシーンであるが、アヴァロンでは矮小な器の持ち主では、帝国の中心たる騎士団長の椅子には座れない。もし座れたとしても器の小ささは、すぐにフェリシアに見抜かれ即行で除名されるだろう。

「僭越ながら発言を許して頂けますか?」

「構わない。意見が有ったら何でも言ってくれ」

ガラハドもエリスに負けず劣らずの理想の上司振りだった。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その2」(第94話)


二枚目の渋いナイスミドルで、優しい気な甘い顔立ち、事実温和で妻と息子を何より愛し家庭を大事にするガラハドは、理想的な父親でもあった。アヴァロンの男や少女達のアイドルがエリスなら、貴婦人のアイドル的な存在はガラハドである。

エリスがフェリシアと出会う前から騎士として仕え、第一騎士団長フォレスの次に長い間、フェリシアに使えている聖騎士である。しかもエリスの祖父エドガーの愛弟子でエリスの父親アランの親友でも有った男なのだ。

こんな彼も今は消滅しアヴァロンの一部と成った隣国が、侵略戦争を吹っ掛けて来た時には、たった数騎で敵陣に飛び込み、敵国の王の首を撥ねた猛者でもある。
最も帰国した途端フェリシアの父親である先代皇帝に「命を粗末にするなっ!」と叱られたのだが・・・この時は敵王の首を取った直後、敵陣に取り残されたガラハドは死を覚悟した。救い出したのは聖都に来たばかりのエリスと彼女の雇った傭兵団だった。

この手柄でエリスは騎士になり、エリスが雇った傭兵はガラハドが自分の騎士団に編入する。その内何人かは騎士まで昇格したのだった。



話は戻るがガラハドに発言を許された女騎士は言った。

「このまま陛下とエリス様を探し続ける事が得策と思いますか?」

「どう言う意味だい?」

「逃げ回ってるのはフェリシア陛下とエリス様です。ガラハド様もレイ殿の事は御存知でしょう。レイ殿仕込みの御二人が、簡単に見付かるとは思えません。第一見付けたとしても連れ戻せません。私達が総出でも歯が立つ相手では・・・・・・」

「じゃあ探すなと言うのかい?」

確かに皇帝が姿をくらまして、探すなというのも無理があった。

「立場上難しいかと思いますが、陛下だって市井の見分が終わらなければ、帰る筈も御座いません。いっそ市内の安全を確立し、無闇に追いまわしたりしないで陛下の見分を円滑に終わらせる様に仕向けるべきです」

「ムムッ・・・一理有るな」

「それに陛下の事です。市民の生活を見回る事位、今まで散々して来た事なのに、今回に限って態々姿を消したのは・・・何か考えが有るのでは無いでしょうか?としたら此の侭市内を探し回るのは果たして得策でしょうか?私はそうは思えません」

するとガラハドは笑い出した。そして

「ハッハッハッ・・・はっきり言うなあ、君は騎士に成ったばかりだね?名前を聞かせて貰えるか」

「リアと申します。無礼な発言・・・・・・」

「その様な事は無い、君の言う通りだろう。陛下が御戻りになったら、私の方こそ叱られるかも知れないな?“私が消えた位でオロオロして如何するのですかっ!”とね」

「その様な事は・・・・・・・・・」

リアが返答に困る。

「いや事実そうだろう。これは陛下の御小言を覚悟しなくてはならんな・・・オイッ!」

配下の騎士を呼び、指示を与える。

「朝から捜索に当っている兵は全員帰還せよ。但し何か有ったらすぐ出られるよう軍舎で休息し待機する事!いつでも出られる様に食事は量を抑えて数回に分けて食べ、出来るだけ装備も解かないで置く様に!」

フェリシアに何か有った時、すぐ出られるように指示を出す。

「後の者は交代で巡回、聖都警備隊及び守備隊は、聖都の警備を厳重にせよ。市民の協力を求める必要は無いが、怪しい輩には注意するように」

「私たちも巡回に・・・・・・・・・」

リアの申し出をガラハドは遮った。

「君達が私の命令に従う義務は無い。しかし君達は朝から走り回っているし、この状態で何か有ったら満足な働きが出来るのかな?何処かで食事でもとって休みなさい。その代わり何か有ったら力を借りる」

リアは言葉に詰まる。

「ただローザには今の話を詳しく伝えてくれ。この期に乗じて陛下の暗殺を企みそうな不徳者は、エリスと共に調べ上げてる筈だから」

「分かりました」

リアは頭を下げ、立ち去ろうとした。

「もう一つ・・・陛下達は修道女の格好をしている可能性が高い!皆に注意するように・・・・・・・・・」

「待って下さい。幾等、礼拝直後に姿が見えなくなったからと言って・・・・・・安易過ぎませんか?陛下達も他の姿に変装するのでは・・・・・・・・・」

ガラハドはニヤリと微笑んだ。

「陛下は兎も角エリスはアノ美貌だ。特に美しい金髪は人目を引く。市民の格好をしてても目立つだろう?なら自然に髪を隠せる修道服は打って付けだ。何より陛下は・・・・・・・・」

噴き出しながらガラハドが言った。

「前からエリスに修道女の格好をさせたがっていた」

早い話がコスプレである。

「しかし・・・手掛かりには成りません。花嫁修業の一環ととして修道院に入る娘も多いのです。修道女なんてアヴァロニアには溢れ返ってますよ」

そんなやり取りを一組の修道女が、食堂の離れに有るテラスから眺めている。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その3」(第95話)


テラスに座ってガラハドとリアの遣り取りを聞いている、スラリと背の高い修道女と、まだ幼そうな背の低い修道女。二人は当然エリスとフェリシアだった。

「ガラハドとも有ろう者が、私が消えただけで情けないと思ったけど・・・間違った方向を即座に修正する手際の良さは流石ね?でも“私は兎も角エリスの美貌なら”って如何言う意味よっ!戻ったら一言文句を言ってやる!!」

そんなフェリシアを見てクスクスと笑うエリス、この街では修道女の存在は珍しくないからガラハドの言う通り、さほどエリスも目立たなかった。
すると下でリアの先輩に当る騎士が兵に指示を出し始めた。すぐに騎士と兵士が集まり始める。

「リアは見所が有るわね?貴女が推薦するだけの事は有るじゃない・・・アラッ?」

集まった人間の大半が歩き出した。軍舎に帰って休むのだろう。だが残っている者はエリス達が居る食堂に入って来る。

「不味いわね・・・」

出入り口は一つ、逃げられそうも無い。エリス達は植え込みの影の席に移動した。外の道へ飛び降りれば逃げられるが、幾等フェリシアも無銭飲食などと言うチンケな罪を犯したくは無かった。
仕方なく二人は中を窺う。



まだ若い騎士ばかりが8人、運悪く離れの席に付いた。背の高い力自慢の娘ルーシアと新米だが実力を認められてるリアが、この隊のリーダー格である。

「しかし御二人は何処へ行ったんだ・・・聖都から出てるんじゃ無いだろうね?」

「少なくとも未だ市内には居るでしょう。その点はガラハド様の判断と対処は素早かったですから間違い有りません。しかし流石の陛下も、護衛も成しに聖都を出ようとする程、無謀な事はしないでしょう」

落ち着いてリアが答えた。店主に料理を頼み、酒を飲もうとする同僚を注意する。

「それにしても本当に陛下は何を考えてらっしゃるのでしょう?このような事は私が騎士になって初めての事・・・イイエ、父も騎士でしたけど、一度も聞いた事が有りません」

ソーニャと言う名の娘がノンビリと言った。貴族の娘で育ちが良くおっとりしている。しかし一度戦になれば鬼神の如き戦い方をする頼もしい騎士でもあった。そんな時でものんびりした口調が変らないので、緊迫感を削ぐのも確かなのだが・・・・・・・・・・

「イエ、陛下ではなくエリス様の御考えでしょう」

するとルーシアはリアに問う。

「さっきから聞いてると何か知ってるみたいだね?知ってるなら話してよ」

「私達騎士は常に目立ちます。何処で耳を立て、聞かれているか・・・・・話さない方が無難かと」

騎士達がキョロキョロ辺りを覗い、慌てて隠れるフェリシアだった。

「しかし御二人が居なくなって半日経ったのよ?何か知ってるなら仰っても・・・エリス様の考えなら、それを達成するには時間が掛かるのでしょうか?」

他の騎士が言い、ようやくリアが口を開いた。

「知ってると言うほどの事では無いのです。ただ忍者を束ねている方の姿が、週明から見当たりません。恐らく・・・・・・・・・・」

パンを千切って口に運びながら、小声で言った。

「先週エリス様は陛下の乳母であったドーラ様から手紙を受け取り、一人でドーラ様の店に出向きました。想像ですけど何か頼まれ事をしたのでしょう。ところが調べるのを忍者に頼んだので、陛下に暴露れて仕舞った・・・・・・それで陛下が無理矢理付いて行ったと言う所でしょう」

「第12章 二人の怪しい修道女?! その4」(第96話)


「まいった・・・エリスが推薦する位だから有能な娘だと思ってはいたけど、まさかココまで私たちの計画を読んでるとはね!」

実際大した物だった・・・この計画はフェリシアとエリスを除けばローザとレイしか知らない。しかもリアが「忍者を束ねる・・・」と言ったのは、間違いなくレイの事だった。隠してる訳では無いが、レイが本当は忍者である事を知ってる物は少ない。しかも正体を見破り、姿を消している事に気付いていたのは驚きだった。

騎士達は談笑しながら食事を続けた。すると外から何者かが走って来る。鎧の胸にはエリスの騎士団の紋章、しかしレリーフを縁取る月桂樹と葡萄蔓の唐草模様が金色ではなく銀色だった。それは見習い騎士の紋章だった。

「失礼します。騎士リア殿を第六騎士団カミーラ団長が御呼びです。至急軍舎に出頭願いたいとの事です」

「ちょ・・・ちょっと待ってよ!シャルったら・・・」

来たのはシャルロッテであった。いつも冷静なリアが、珍しく慌てシャルロッテの口を塞いだ。

「同期の私に“殿”何て付けないでよ」

だがシャルロッテは言う。

「しかし私の様な未熟者が、騎士殿を呼び捨てになど出来ません。敬称で呼ぶ事を御許し下さい」

「プッ!」

「クククククク・・・・・」

「クスクス・・・」

周りの騎士が笑っている。

「もうっ、分かりました。スグ出頭します」

テーブルに立て掛けてあった剣を腰に戻し、リアはシャルロッテに向かって言った。

「そう言えば貴女だって朝から何も食べてないでしょう?私が頼んだ料理で良かったら食べてって」

シャルロッテが遠慮すると、リアは意地悪そうに言った。

「騎士殿の命令、食べ終わるまで席を立たない事!イヤだって言ってるのに“殿”付けて呼ぶオカエシよっ」

思わず周りの者が笑い出した。勿論植え込みの影でエリスとフェリシアも笑っている。罰が悪そうなシャルロッテ、あの一件以来、リアとシャルロッテは親友に成っていたのだ。

「参ったなあ・・・有能なだけでなく人徳も備えている。あの娘はエリスがスカウトしたんでしょ?もう少し見付けるのが早かったら、貴女の最年少騎士昇格記録、抜かれたかも知れなかったわね?」

フェリシアが本当に感心していた。エリスも得意そうである。だが・・・この後エリスの顔は真っ青に染まる事に成る。問題児で無くなっても、シャルロッテはトラブルメーカーなのかも知れなかった。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その5」(第97話)


生真面目なリアが消えると、残った女騎士達の表情が緩んだ。コッソリ酒を頼む者まで出て、シャルロッテに注意される。これは戻ったらエリスも口頭で叱る必要が有る。しかし地下ドームで罰するほどの事では無いだろう。

「ところでシャルロッテさん!貴女エリス様に眼を掛けられてるのを良い事に、随分イイ眼を見たじゃない?」

「少しズルイわ!」

「確かにネ!」

一斉に騎士達がシャルロッテに詰め寄った。エリスもフェリシアと顔を見合し、覚えの無いエリスは慌てて首を振る。

事実エリスに眼を掛けられると言う事は、厳しく鍛えられると言う事である。そして確かにシャルロッテは本人が望む事も有り、厳しく鍛え抜かれていた。
剣の鍛錬などでボロボロに成るまで打ちのめされ、軍舎に帰る事も多いシャルロッテが良い目を見ているとは思え無い。それに他の者だって望めば、エリスは幾等でも立会いの相手をする。

「御待ち下さい。一体私が何の優遇を受けてると・・・・・」

「そんなんじゃ無いんです!」

珍しくソーニャが声を荒げた。この娘が不快感や怒りを表情に出すのは珍しい。

「貴女・・・幾等陛下の命令とは言え、エリス様のオシリに舌で御奉仕したんですって?」

途端にエリスの足がよろけ、フェリシアは口を押えて笑いをこらえる。

「とぼけても無駄よっ!侍従達の間で凄い噂なんだから」

「私なんか生尻すら見た事が無いんだぞ!」

「新人の不良娘だったクセに、エリスお姉さまのオシリをっ!」

「しかもその後、エリス様の性器まで舐めて御慰めしたって話じゃない!」

「ああっ!私もエリスお姉さまのアソコに舌で愛撫して差上げたい!」

こんな話を続けられてはタマラナイ。飛び出し止めようとするエリスを、フェリシアは押える。

「もう少し様子を見ましょうよ!貴女が部下に慕われているか如何かが判るじゃない?」

方便も良い所だった。この会話を続けさせ、エリスが恥ずかしい思いをする事を楽しみたいのだ。

「それならコノ隊は参考に成りません!シャルロッテとは別の意味で問題児の集まりなのです」

実は騎士に昇格したリアをルーシア達の隊に編入したのは、この問題児の集まりを何とかしたいと言うエリスの考えが有ったのだ。
別に無能な騎士達と言う訳では無い。むしろ多少問題が有るのだが、能力的には有能な騎士の集まりだった。しかし・・・この隊の娘達の問題とは、フェリシアを出し抜いて、エリスの身体にチョッカイを出そうとしている困ったレズ娘達の集まりだったのだ!

「せめて・・・その時の状況だけでも話して貰うからねっ!さあシャルロッテ白状しなさい!!」

ルーシア達はシャルロッテに詰め寄った。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その6」(第98話)


エリスは性別に問わず人気が有るアヴァロンのアイドル的存在だ。そして一部の部下から“お姉さま”と呼ばれて、妙な方向で人気が有る事は誰でも知っている。かと言ってシャルロッテも、こんな話を持ちかけられるとは思った事も無かっただろう。

「ななな・・・何を言ってるんですか!言える筈が無いですよっ」

飲酒・乱闘・命令違反、あらゆる軍規違反を犯しながらも、性関係は比較的真面目だった、そんなネンネのシャルロッテはアノ夜の事を思い出して赤面しながら答える。
しかしながら今回は、その純情さが仇になった。

「その様子だと、相当ハードなプレイに巻き込まれた様ですね?」

「陛下のやる事だもんなあ」

更に女騎士達はシャルロッテに詰め寄った。しかし今ではシャルロッテも問題児では無い、エリスにも信頼されている。

「エ・・・エリス様を辱める事など言える筈もアリマセン!許して下さい」

毅然と言い放つ、しかし他の者達は見習のシャルロッテに比べ、百戦錬磨で海千山千の強者達だった。この程度で引く娘達でない。

「て事はヤッパリ淫らな現場に居たんですね?」

「イエ、その・・・」

口篭もるシャルロッテ、確かにネンネの彼女にはハードな夜だった筈だ。

「おいシャル・・・オマエ同じ見習い騎士達に今までの非礼を詫びる為、地下ドームに全員集めて、自ら鞭打ちの罰を受けたそうだな?」

「そ・・・それが?」

シャルロッテに対して凄むルーシア。

「でも上官の私達騎士には何の侘びも無いじゃない?」

「そうね大分私達も無礼を働かれてたもんね」

確かにシャルロッテ達三人が、無礼な態度で接したのは同じ見習騎士だけでなかった。上官の騎士達でさえ、出身が市民だった相手などには生意気に逆らったのだ。
もっとも、それで泣き寝入りする娘に騎士は勤まらない。

「それは・・・」

「だ・か・ら、チョッとで良いから教えてよ!それで相殺って事にしてあげる」

ルーシアはシャルロッテの肩に手を回し、耳元で優しく囁いた。しかし昔ならともかく今のシャルロッテが従う筈も無い。

「お断りします!今までの私の態度は、確かに罰せられるべき物です。ですから鞭打ちでも何でも罰を御受け致します。しかしエリス様が恥ずかしがる秘事を話す事は出来ませんっ!」

気迫に押されるルーシア一同。

「ウッ・・・そう来るか?なら仕方ない、コレなら如何だ!」

ルーシアは酒のボトルを取ると、シャルロッテの口に入れようとする!

「チョ、私は勤務中です!第一私はマダ未成年で・・・ウグッ!」

“ガポッ!”
「ムグッ!ウグゥ・・・コク・・・コク・・・プファッ!」

口を放した時には、既にシャルロッテの表情はトロンとしていた。

「この木苺焼酎は強いだろう?シャルって飲んでる割には弱いって話だからな」

アヴァロンでは飲酒は18歳から解禁で、シャルロッテはそれより歳下だったから当然違法である。しかもそれ以上に放って置いたら何をされるか分からない。流石にエリスは止めようとするが、そのエリスをフェリシアが引き止めた。

「もう見ては居られません。幾等何でもやり過ぎです!陛下っ、放して・・・キャウッ!」

フェリシアはエリスのスカートに手を滑り込ませると、行き成りエリスの肛門を指で穿った。

「な・・・何をするのです。陛下、止めて・・・痛ィ」

更に中で指を曲げ、エリスを自分に引き寄せた。コレでは流石に振り解けない。

「着替える時に一回犯しといて良かったワ♪中は浣腸してあるし、私のミルクで滑りも良いもんね?」

「アアッ、陛下・・・放して下さい。アウッ!指を動かさないで・・・・・・・・・」

エリスの抵抗力を削ぐため、フェリシアの執拗な愛撫が始まった。

「マァマァそう言わないで、あの娘が本当に改心したか見る、いい機会じゃない?」

「わ・・・分かりました、分かりましたからっ!アヒッ、お願いですから抜いて下さい」

「ダメッ、指を抜いたらエリスは止めに入るから!騒いだり私が許す前にアノ娘達を止めようとしたら、思いっ切り痛くするからねっ」

「そ・・・そんなっ、アッ・・・ヤダァ・・・動かさないで下さい」

エリスは消え入りそうな声で、許しを求める。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その7」(第99話)


一方シャルロッテにも尋問が始まった。賑わってる店だが離れだったのが、シャルロッテには災いする。

「お・・・お願いです。エリス様が嫌がる事は話したくありません。先輩方の気が済むまで鞭打ちの罰を御受けします。この場で四つん這いに成り、オシリを出して鞭打たれても構いません。でも・・・でもエリス様の事を話すのだけは・・・・・・・・・」

椅子に座り騎士達に囲まれ尋問されるシャルロッテ。と言うより酒が回って自分で立つ事が出来なかった。

「そうは行かないよ!さあ白状しなさい」

「イヤ・・・イヤです」

するとソーニャが薬のビンを出し、一口煽ると口移しでシャルロッテに飲ませる。

「ウプッ、プファッ!」

「チョッ、何の薬なの?お酒を飲んでる娘に飲ませても大丈夫?」

ソーニャは笑いながら行った。

「酩酊系の御薬です。お酒は関係ないから大丈夫、これ以上お酒を飲ませるのは心配でしょう?」

シャルロッテの眼が更にトロンとなった。



エリスはソーニャが尋問の達人である事を思い出す。軍隊である騎士団は、捕虜を尋問・拷問する事も有る。ただし肉体的苦痛やレイプなどによる精神的苦痛を使った拷問を、エリスは嫌いだった。如何しても必要な時意外、エリスは絶対に使わない。
事実エリスが肉体的拷問を行使したのは、要人の子息が誘拐され、救出が遅れると、人質の生命が危なかった時だけだった。
奇麗事を言う積もりは無いが、極力回避するのが、人の道だと思っている。それに薬や催眠術の方が、正確な情報をもたらす事が多かった。
さて、そんな尋問はソーニャの得意分野だった。薬学・精神学に秀で、交渉事も上手い。事実催眠術や自白剤で、何度も敵兵から有益な情報をもたらしたのだった。その腕は超一流である。

「さあ話なさい・・・先ず貴女はエリス様に何をしたの?」

「ア・・・ウ・・・言えない。言えません」

するとソーニャが尋問の矛先を変える。

「これは査問会です。貴女が正直に事実を話さないと、エリス様が罰を受けるのです」

「そ・・そんなァ・・・・・・」

「さあ言いなさい。貴女は何をしたのですか?」

時間を掛け催眠術を掛けるソーニャ、陥落は時間の問題だろう。

「ああっ・・・エリス様、ゴメンなさい・・・ゴメンなさい・・・・・・・」

シャルロッテはうわ言のように呟いた。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その8」(第100話)


「陛下っ、指を抜いて下さい!幾等何でも酷過ぎます。はうっ!!ウッ痛ゥ・・・陛下の命令でも今回ばかりは・・・・・・・・・」

エリスは肛穴を抉られながら、フェリシアに逆らった。例えどんな罰を受けてもシャルロッテを助ける積りだ。指の動きが乱暴になり、苦痛と快楽を与えて来るが、言わずに居られない。

「駄目よ!」

フェリシアの言葉は冷たい。

「アッ・・・アッ、な・・・何故ですか!まだシャルロッテ達の態度の御怒りを?あの娘は十分反省し、十二分に償いました。もう陛下も三人を許してあげて下さ・・・・・・・・・うぐぅ!」

フェリシアはエリスの前後の性感帯に指を入れ、愛撫しながら優しく言った。

「もう許してるって、でも本当に止めて良いのかしら?エリス・・・貴女はシャルロッテを騎士にしようとして、一部の騎士達に反対されていると愚痴を言ってたでしょう?今までの態度が悪過ぎたからって・・・・・・」

騎士が見習から卒業するには、所属騎士団の騎士全員が認めるか、所属騎士団以外の“上級騎士”二名以上の推薦が要る。特に後者は余程の武功を立てるか、世に認められた武人でないと、滅多に見られないケースである。
エリスは悶えながら、息も絶え絶えで答えた。

「ア・・・ヒッ!た、確かに仰る通りです。シャルロッテ達が地下ドームに皆を集めた時、ローザの遠征に同行ていた騎士が数人、す・・・少し頑固な所がある娘なので、でもアノ三人は心を入れ替えて、アウッ・・・特にシャルロッテは、こ・・・このところ休みの日にも修練や残業を、自ら抱え込んで・・・ああっ、動かさないでェ!い・・・息抜きも必要だと言ってる位なんですが・・・ひゃうっ!」

可愛らしく喘ぎながら、息も絶え絶えで答えるエリス。

「この件を上手く使えば、その娘達にシャルロッテが本当に心を入れ替えたと説得出来るんじゃない?折角、私が機会を作ったのだから・・・・・・・・・」

「へ・・・陛下が企んだのですかっ!」

フェリシアがペロッと舌を出す。

「こんな事やらかす何て思わなかったけどね♪ソーニャを使ってルーシアを唆したのは私よ。でもやり方は問題ね・・・もう少しイイ方法を考え付かなかったのかしら」

「・・・・・・・・・・・・・・・・悪魔」

フェリシアがピクンッと反応する。

「そう言う事を言うの?」

確かに騎士が皇帝に言う事ではなかった。

「言われて当然とは思いませんか?」

今回だけはエリスは引く積りが無い。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その9」(第101話)


ソーニャの話術と薬の効果で、シャルロッテの口は滑らかに語り出した。

「そこで陛下は・・・処女同然のエリス様のオシリの穴を愛撫するように命じました。そうしないとエリス様のオシリが裂けて、エリス様が苦しむと思ったからです。ああっ、これ以上は言えません。許して下さい・・・・・・・・・・」

だが許す筈も無い。騎士達の顔は紅潮し、明らかに興奮していた。

「で・・・エリス様のオシリの味は如何でした?嫌いだった・・・しかも同姓のオシリの穴を舐めさせられたのです。汚いとか臭いとか思わなかったのですか?」

「陛下にやり捲くられて、形が崩れたりしてないの?」

淫らな質問が乱れ飛ぶ.しかしシャルロッテは熱病にうなされたように、虚ろな眼をして答えるのだった。

「そんな事は無かった・・・エリス様のオシリの穴は、とても綺麗な形でした。色も綺麗なピンク色で・・・・・・・・・・」

「味とか匂いは!?」

ルーシアが目を血走らせて質問する。

「エリス様は・・・陛下の御相手をする時は、水に風の精霊の魔力を閉じ込めて飲むと聞いてます。すると水は渦巻き、身体の中を洗いながら下へ降り、汚い物を全て洗い流して排泄されます。とても辛い方法だけど、食道から胃腸まで全てを綺麗に出来るのです。しかも三回も繰り返されて・・・だから汚いなんて思わなかった。チョッと汗の味がしただけ・・・・・・・・・・・」

「それで!」

「エリス様は腸内を綺麗にしてから、バラの花びらから抽出した香水を一滴垂らした水を、ほんの少しだけ浣腸するのです。陛下の御好みで弄ばれる場所と言え排泄器官、エリス様は陛下が不快な思いをしないように・・・だからエリス様のオシリの穴は、とっても良い匂いがして、全然臭くなんてない・・・・・・・・・駄目ェ、これ以上は言えません」

「ココまで来て、止められてたまるかっ!オイッ、シャルを押え付けて尻を出せ」

ルーシアが言った。シャルロッテはテーブルの上に押え付けられ、スカートを捲られる。

「尋問はソーニャの担当だけど、拷問はアタシの担当だよ!こう言うのは如何だ?」

そう言って一口酒を煽ると、今度はシャルロッテの肛穴に口付ける。そして口の中の酒を、一気にシャルロッテの肛門に吹き込んだ!

「イヤァ~~~ッ!・・・熱い、熱いぃぃ」

「さあ言うんだ!それから?」

「グスンッ、私達は三人で交互にオシリの穴を・・・そしてエリス様を失神させれば許すと、陛下が言われたので・・・くすぐって・・・でもエリス様は私達に怒る事無く・・・叱られたのは騎士を辞めると言った時だけで・・・・・・・・・」

更に目を血走らせ迫るルーシア達、興奮して顔は真っ赤である。だが次の瞬間、その顔が蒼くなった。

「いい加減になさいっ!」

騎士達の背筋が飛び上がった。聞き覚えのある怒鳴り声に、恐る恐る振り返る。そこには見覚えのある顔の修道女が、怒りに震えながら仁王立ちしていた。

「コンニチワ、シスター♪」

ルーシアのボケは怒りを煽る。

「貴女達っ、全く何をするかと思ったら・・・しかも街の飲食店で一体何をしてるのですかっ!」

女騎士たちは必死で言い訳をする。

「イヤこれは・・・」

「虐めっ子にだったシャルロッテに、虐められる苦しみを知って貰おうかと・・・・・・・・・」

「そう愛の鞭って奴です!」

「それにエリス様も見てたんじゃあ無いですか・・・白黒ショーって事で」

ブツッ!と切れる音がした。何が切れたのかは言うまでも無いだろう。その音は騎士だけでなくフェリシアにもハッキリ聞こえた。

「私は陛下に無理やり引き止められてたんですっ!」

エリスの怒鳴り声は店はおろか、道や隣の店にまで響いた。

「スグに軍舎に戻りなさいっ!一ヶ月の外出禁止、暫くはキツイ任務と皆が嫌がる雑務に就いて貰いますからねっ」

「そ・・・そんなぁ・・・・・」

騎士達の間の不満の色が浮かぶ!

「それが嫌なら・・・地下ドームでオシリ叩き!シャルロッテに暴力を振るった罪で30回、未成年に飲酒させた罪で30回、街中の店で淫らな事をしたり話した罪で30回、オマケに10回追加で計100叩きの鞭打ちですっ!」

「ヒッ、ヒェ~~~ッ!」

騎士達が慌てて退いた。

「先ずはシャルロッテを連れて行って介抱して上げなさい。お風呂にもチャンと入れて上げて、衣服や鎧も洗うのです。その後は軍舎と宮殿の厩の掃除っ、早くしなさ~~~いっ!!!!!」

「ハッ、ハイ~~~ッ!」

大慌てで逃げ出す騎士達、本来は地下ドームでの刑罰モノの罪であるから、逃げ帰ったのも当然だろう。

「全くアノ娘達ときたら・・・陛下も笑ってないで下さい!」

エリスは怒鳴った。しかしフェリシアの笑い声は止まらない。

「は・・・初めての事ね、貴女が怒りに任せて部下を罰するのは?まあ頼まれた事も済ませたし、ドーラに報告して安心させて上げましょう」

二人は修道服のフードを被り直して店を出る。たが店を出た途端、数十人のチンピラに取り囲まれてしまった。しかし良く見ればチンピラにしては身形の良い。
気配に気付いていた二人は動じなかったが、やれやれという顔で溜息を吐く。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その10」(第102話)


「見付けたわよっ!逃げられるとでも思ったの?私を殴って置いて・・・・・・」

いかにも貴族と言う感じの身形の良い娘が言った。先程エリス達が、取り巻きと一緒に殴り飛ばした娘だった。当然取り巻きのチンピラも、やさぐれた貴族の息子達なのだろう。

「自業自得です!懸想した相手が振り向かないからと言って、その思い人に乱暴を働き、髪を切るなど許される事では無いでしょう?」

エリスは言い放ち、ビンタ一発では軽過ぎたと後悔した。実際フェリシアが止めなければ、もっと強く複数回殴っていただろう。こう言う自分の親の地位や権力を振りかざす女は、エリスもフェリシアも大嫌いなのだ。

「たかが一般市民の小娘に・・・・・・・・・」

“パチ~~~ンッ!”

全てを言い終わる前に、エリスの平手打ちが飛んだ。

「また殴ったわね?親にすら手を上げられた事は無かったのに・・・・・・・・・」

「貴女がイイ子だから殴られなかったんじゃ無くて、親が馬鹿だから殴らなかったのよ」

フェリシアは涼しい顔で言った。

「な・・・何ですって?」

「本当に馬鹿な娘っ!あの店の女将さんドーラが皇帝の乳母だった事は知らないの?」

「だったら何なのよ!」

その時エリスが修道服のフードを下し、修道服を脱ぎ捨てた。金色の長い髪が風になびき、美しい顔が周囲の視線に晒される。

「第零近衛騎士団の・・・エリス将軍っ!?」

チンピラの一人が呟いた。

「アヴァロン聖騎士団筆頭の白銀の女勇者?」

「聖帝フェリシアに握られし白銀の剣か!」

「美しき鬼神、戦いの女神、剣と美の聖女・・・・・・・・・・」

何人集まろうと相手にならないのは馬鹿でも分かる。チンピラが一斉に後退り、逃げる事も出来ずに硬直している。

「フフンッ♪」

愛しのエリスが格好良くキメたのを見て、フェリシアは気分が良くなった。ココは一つ自分も格好良くポーズを取る必要がある。と思ったフェリシアも修道服を脱ぎ捨てる。

「ゲゲッ!アンタは・・・・・・・・・」

エリスほど人気は無いけれど、私だってアヴァロンでは名君と名高い女皇帝だ。そう思ってフェリシアは得意顔だった。

自分で名君と思ってい辺りは、ハッキリ言ってイイ度胸である。だが事実フェリシアほど有能な治世者は、世界中捜しても類を見なかった。アヴァロン帝国歴代の皇帝の中でも最も人気が有り、国民から慕われ愛されている。事実、フェリシアが治める帝国は、国が安定し国民の生活水準も高く豊かであった。

欠点はエリスに対する歪んだ愛情のみである。しかし歪んでいてもエリス本人が、その愛を黙って甘受してるのだから、他の物がとやかく言っても始まらない。

だが・・・・・・・・・・

「“ド助平チビ牝ゴリラ”のフェリシアだとっ!」

「な・・・なんですって~~~っ!」

フェリシアが素っ頓狂な声を張り上げる!

「あの女ワーベア、フェリシア皇帝か?!」

「“見た目は御人形さん、中身は鬼悪魔の最悪娘!そして性格はスケベなヒヒ爺!!”と歌われる赤毛の女魔神?」

「ドラゴン殴りのフェリシアッ!」

「喧嘩を売った相手は、必ず全員二度殺されると言う!」

「一度目は拳でっ!二度目は魔法でって噂の?」

一斉にチンピラが土下座をし、フェリシアに向かって祈り出した。

「御願いっ、殺さないで下さいっ!」

「家には三人の女房と一人の子供が待ってるんですっ!」

「俺達は頼まれただけで・・・・・・」

「後生ですっ!せめて命ばかりは御助けを~~~~~っ!」

「よりによって“アヴァロン最強の鬼婆小娘”に喧嘩を売っちまうとは・・・・・・・・・・」

エリスはフェリシアを羽交い絞めにした。殴り掛かる寸前だったのだ。

「お願いエリスッ!せめて・・・せめて一発殴らせてっ!」

「陛下が本気で殴ったら死んでしまいますっ!」

コレは事実で、フェリシアが本気で殴ったら大変だ!チンピラの言っていた「ドラゴン殴り」は言葉通りの意味を持つ。

友好国である隣国アルカディアが邪悪なドラゴンを操る魔法使いに襲われた時、アルカディアの王子達四人とエリス・フェリシアそしてローザの7人で退治したのだ。この時のパーティーは、二つの大陸で7人しか居ない“ドラゴンスレイヤー”なのだ。
その事は吟遊詩人の語り草で、隣国の第二皇子とエリスがドラゴンの心臓を左右から貫くと同時に、フェリシアがドラゴンの横っ面を殴り飛ばしたのは余りに有名な話であった。

「分かった・・・半殺しっ、半殺しで我慢するから!駄目なら五分の二、ウウン三分の一でもイイから~~~ァ!」

暴れるフェリシアを必死で押えるエリス、しかし・・・・・・

「チキショウ、皇帝に絡んだなんて親父に知れたら勘当される。なんで平民の娘をレイプした位でこんな眼に・・・・・・・・・」

「そうだよ、王族なら兎も角・・・・・・・・・・」

と呟いたのを聞いて気が変った。実は今回の事件とは、ドーラの店で働く小間使いがレイプされた事なのだ。事を広めない為にもコイツ等は裁判には掛けられない。だからこそエリス自ら出て来て、内密に打ちのめしたのだ。

しかしコイツ等は全然反省していない・・・・・・もっとキツ目の罰を受ける必要がある。

「殺さないで下さいね」

エリスは手を離し、フェリシアがチンピラの中に踊り込んだ。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その11」(第103話)


「ギャ~~~~~ッ!」

「お、お助け~~~っ!」

「殺される~~~っ!」

チンピラの悲鳴が木霊し砂煙が舞い上がった。暫くしてからエリスは、再びフェリシアを羽交い絞めにして引き離す。

「どうどう・・・ハイ、ココまでっ!陛下、殺しては成りません」

「そうね、殺さない約束だもんね」

フェリシアは残念そうに呟いた。エリスは手を離し、フェリシアの着衣の埃を落とそうとする。だが一瞬の隙を突かれ、エリスの脇を擦り抜けると、フェリシアは再び哀れな犠牲者と化したチンピラ達に飛び掛った。

「陛下っ、何をしてるんですか?ヤメテ下さい、ヤメテ~~~ッ!」

「大丈夫よエリスッ、まだ半分まで殺してないわっ!もう三分の一くらい殺しても・・・後三発づつ・・・アァ~~~ン分った。後一割殺しでヤメておくからっ!」

「エェ~~~イ、何を仰ってるんですかっ!御止め下さいっ」

そう言って暴れるフェリシア、それをエリスは懸命に押える。ようやくフェリシアが大人しくなった時には、エリスの髪はボサボサだった。

「ハァハァ、そ・・・そこまでエリスが言うなら勘弁してあげる」

散々暴れたくせに、フェリシアはそう言った。

「でも覚悟して置くのね・・・親を含めてキッチリ絞って上げるから」

そう言い終わった途端、兵士がバラバラと飛び出してチンピラ達を捕縛した。指揮を取ってるのはリアだった。

「何処から出て来たの?」

「ルーシア達と擦れ違い話を聞きました。その後この者達に連れて行かれる御二人を見付け、後を追けたのです」

そう言うリアの頭を、フェリシアは子供を誉める時のように撫で出した。

「でもスグには出て来ないで、私が暴れ終わるまで待っててくれたのね?何てイイコなんでしょう!エリスッ、私はコノ娘が気に入ったわ」

エリスは苦笑してたが、縛りあげられたチンピラに向き直り言い放った。

「私達に殴られた時、反省してたら良かったモノを・・・知らぬ事と言え陛下に無礼を働いた愚か者めっ!聖騎士エリスの名において捕縛する」

そしてエリスに平手打ちされた娘の胸倉を掴んで、他の物にも聞こえるように言った。

「覚悟して置きなさい・・・強姦罪や暴行罪より、ずっと重い罰に成りますよ。牢の中でタップリと反省するのです。ただし・・・・・・」

全員に聞こえながら見物人には聞こえない程度に声を抑え、エリスは凄んで驚かす。

「ドーラ殿の店の娘に狼藉を働いた事を口外したら、今度はタダでは置きません。その時は陛下を止めません・・・イイエ陛下が手を出すまでも無いっ、私が貴女達を成敗します。この剣に誓って・・・・・・・・・」

娘を始めチンピラ達の顔が真っ青になった。貴族の子達と言っても、こんな事を仕出かす連中である。本気で殺気を放つエリスに凄まれて、逆らえる筈が無い。
その証拠に娘は失禁した。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その12」(第104話)


ドーラの店に戻った時には、どっぷりと日が暮れていた。戻った二人から話を聞いたドーラは、二人を丸々と太った大きな身体で抱き締めて、感謝の言葉を口にする。
しかし・・・離れの小屋から若い娘の怒鳴り声が聞こえて来た。ドーラは説明した。

「知ってるでしょ?家の手伝いをしてくれていたエミリー、今回の被害者だよ・・・婚約者が来て説得してるんだけど、私の言う事さえ一向に言う事を聞かないんだ。婚約者ってのが貴族の息子の割には見所が有るんだけどネェ。でもエミリーは身体を汚されては一緒に成れないって・・・・・・・・・・」

一生懸命に説得する声が聞こえて来た。

「なるほど、先ほどのドラ息子達とは違いますね」

確かに誠心誠意、エミリーを説得しているらしい。だが言葉に力が無く、言い負けている様に聞こえて来る。

「エェ~~~イ、じれったいっ!それに情け無いっ」

フェリシアはトコトコ歩いて庭を横断する。そして“ビタ~~~ンッ!”と大きな音がして、エリスとドーラが顔を見合わせる。覗いて見ると庭の隅に青年・・・イヤまだ少年と言っても良い男の子を引っ張って行き、何かを言い聞かせている。

「あの少年が婚約者ですか?」

「そうよ、大恋愛の末の相思相愛なの。こんな事で二人の仲が・・・・・・」

フェリシアは少年に何かを言い聞かせたいた。少年は項垂れ聞いていたが、顔を赤くして首を左右に振った。その頬は更に赤く、さっきの音がビンタだったと想像出来る。
するとフェリシアは少年に背を向け歩きながら行った。

「そんなんじゃ大事な人を無くしちゃうわよ?これは貴方より耳年増で、歳の割には人生意見のある小娘のアドバイスだけどね」

「彼女を失う位なら何だって出来ます。僕は彼女が汚されても、何かを失ったなどと思っていません!」

フェリシアは振り返って少年に言った。

「グッドラック♪」

「御助言アリガトウ御座います。お名前を・・・・・・」

フェリシアは微笑んで言った。

「上手く行ったら、その時に教えます。頑張ってねキーン」

「本当にアリガトウ御座いました」

少年は身を翻す。



帰って来たフェリシアにエリスは言った。

「あ・・・あの、一体どんな助言をしたのです?非常に心配なのですが」

エリスは、フェリシアが少年にナニを吹き込んだかが心配だった。

「大した事じゃ無いわ・・・そうだドーラ、この後キーンが破ったガラス窓や壊した物は、私が弁償する」

だがドーラは首を振った。

「二人が上手く行くんなら弁償なんて要らないわよ。でもフェリシアちゃん・・・ホントに大丈夫なのかい?」

フェリシアは胸を張って答えた。

「私は貴女に育てられたのよ?自分の娘を信じなさい。取り合えず空いてる部屋は有る?一晩世話に成るから・・・・・・・」

「三階の部屋が二つ空いて・・・・・・」

「一つで良いのっ!でもエリスッ、先ずは御飯でも食べましょう」

フェリシアはエリスの背中を押して、ドーラの店の酒場兼食堂へ向かった。その時、ガラスの割れる音が背後で響いた。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その13」(第105話)


翌朝、朝食を食べる二人の元に、キーンと彼に肩を抱かれたエミリーが現れた。二人は硬く手を握り合い、如何にも仲睦まじげに見える。だがフェリシアの顔と、エリスの鎧の紋章を明るい所で見て、二人の正体に気が付いた様である。

「まさか陛下とは思わず、御無礼の程を御許・・・・・・・・・」

「アレを無礼なんて言ったら、この店の常連客全員が死刑モノよ?その様子では上手く行った見たいね・・・オメデト」

「ありがとう御座います」

礼を言う二人、そしてエミリーは仕事に走り、遠慮していたキーンもフェリシアに促され一緒の席に付いた。上手く行ってエリスも嬉しそうだったが、取り合えず疑問を投げかける。

「でも陛下はどのような助言を成されたのです?」

その言葉を聞くなり、キーンの顔が赤くなった。

「部屋に飛び込んで、先ずは言う事を聞かなかったらビンタを一発、その後は暴れたり喚いたら、静かに成るまでオシリを引っ叩く事!無理矢理押え付けてスカートを捲り、下着も取って直に叩く事が肝心!!そして大人しくなったら如何にエミリーがキーンに必要かを説得し、それでも駄目なら無理矢理トコトン犯し抜いて言う事を聞かせる!!!」

「そ・・・そんな無茶苦茶な事を教えたのですかっ!」

思わず叫ぶエリス、ドーラは厨房で大笑いし、エミリーは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。

「女にとって最大の屈辱である事は確かだけどね!それでも多可が無理やり身体を犯された位の事で大事な人に去られたら、去られた方はタマラナイって!そんな事位で身を引こうなんて考えてる御嬢ちゃんは、少しお灸を据えるのが良いのよ。そうエリスは思わない」

フェリシアが言っているのは、デッガーの件である。悟ったエリスは頭を下げた。

「深く反省しています」

フェリシアは満面の笑みを浮かべた。

「よろしい・・・所でキーン?」

キーンに向かって意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「実際の所、昨日は何処までやったの?ビンタ?オシリ叩き?それとも・・・」

「最後までしました。エミリーもアレで中々強情で・・・・・・・・・・」

「キーンお願いよっ、そんな事言わないでっ!」

エミリーが飛び掛って口を塞ぐ。店の中に笑い声が木霊した。



その三日後エリスは帝国議会の廊下で、とある人物と擦れ違った。第一騎士団長フォレスである。他の騎士達から御老体とからかわれると、年甲斐も無く怒る血気未だ衰えない活発な人物だ。最高齢の騎士で長老的な立場にある。その知識は帝国の宝であった。
辺りに人目が無い事を確認し、エリスは口を開く。

「お義父様、お久し振りです。お身体の調子は如何でしょうか?」

エリスの養父でも有る老齢の騎士は、孫を見るような優しい眼でエリスを見る。

「久し振りだなエリスや・・・しかし老人扱いしないで欲しいぞ。これでもマダマダ若い連中には負けん。オマエこそ身体は健やかか?噂では大分陛下に虐められてると聞くが?」

「もう慣れっこです」

にこやかに微笑むエリス、しかしフォレスは表情を曇らせ、溜息を吐いた。

「それにしてもオマエが陛下とこんな仲に成るとはな・・・私は騎士などより社交界にでもデビューして、立派な男と一緒になって欲しかったのだよ。今ではエリスを社交界に入れる事を諦めたエドガー殿の気持ちが良く分かる」

エリスはチョッと困ったような表情で謝る。

「ご期待を裏切って申し訳御座いません」

「イヤ、その分立派な騎士に成ったのは確かだが・・・おおっ、そう言えば立派な騎士が一人増えたぞ。私の騎士団に配属される新人で、若いが見所がある。話は聞いてないか?」

エリスは少し考え言った。

「ガラハド殿の上の御子息が辺境警備から帰られたそうですね?確か名前はキンケイド・・・自分の所では鍛えず、エルギス殿に預けたと聞いてます」

「ガラハドの性格から言って、世間から親の七光りだの言われたくないのだろう。アイツらしいと言えば確かだが、せめて陛下に初めて謁見を賜る時くらい、親のオマエが付いて行ってやれと言っといた」

「別に私でなくとも良いのですが・・・・・・」

後ろから声を掛けられ振り返ると、其処に立っていたのはガラハドである。

「陛下は午前中は忙しいそうなので、取り合えず騎士団を取り纏めるエリスに紹介し様と探していました。ココに居ましたか」

そう言うと後ろに控えていた騎士を紹介した。

「息子のキンケイドです。エルギス殿の許しが出たので、このたび聖都に呼び戻・・・・・・」

しかしエリスは驚きの余り、ガラハドの話を聞いていなかった。

「第12章 二人の怪しい修道女?! その14」(第106話)


エリスがフェリシアの執務室に入ると、程なくしてノックの音がして、ガラハドが入室した。

「失礼します。陛下に新しい騎士の目通りを御願いしたく・・・・・・」

フェリシアは少し考え気が付いた。

「そうかガラハドの息子さんが帰って来たのね?自分の騎士団で鍛え上げたら良かったのに、エルギスに預けたのよね?ガラハドなら身内でも甘やかさないでしょうに・・・・・・・・」

「イイエ自分ではその積りでも、やはり甘く見てしまう事が無いと言い切れません。それにエルギス殿の第三騎士団に入れれば間違いないですから」

辺境警備に当る第三騎士団は、事実上アヴァロン帝国の騎士養成学校である。第零近衛騎士団のように特殊な場合(女のみの軍隊と言う性質)を除いて、騎士を志す者を育てる部署になっている。騎士団長のエルギスは差し詰め校長先生と言う所であろう。

「マア紹介の必要も無いかも知れませんが・・・・・・」

「何故?」

答えずガラハドは指をパチンと鳴らした。入って来た人物の使い込んだ鎧に、真新しく刻まれた第一騎士団の紋章が輝く。だが着ている人間の顔を見て、エリスの表情が崩れてしまった。

「失礼します。第二騎士団に配属されたキンケイドと・・・・・・」

「結構よ“キーン”!エリス・・・その様子じゃ知ってたみたいね?」

エリスはクスクス笑っていた?

「許して下さい。陛下の驚く顔が見たくて・・・私も先ほど紹介されて驚いたのです」

ガラハドがフェリシアに言った。

「不肖の息子が陛下には色々と御世話に成ったと・・・アリガトウ御座います」

エリスとガラハドがニヤリと笑い、キーンが優しく微笑んだ。

「私達の式には是非お二人も・・・・・・」

「当然、私が結び付けたカップルだもん。責任取るに決まってるじゃない♪」

言い終わる前にフェリシアが言った。エリスも笑いながら、窓から城下を見下ろす。聖都アヴァロニアの街は、今日も賑やかで活気に溢れていた。


つづく