A-MEN様作
聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 騎士と王女の物語 第1章

「第1章 女帝フェリシアの怒り 前編」(第3話)


部下の言葉をやっと理解したエリスは部下に詰め寄った。
意味が飲み込めても納得いく訳がない。

「一体、一体どう言う意味ですか!それは陛下の御言葉なのですか?通して下さい、陛下に直接御伺いします!」

その前を部下が塞ぐ。

「止めて下さい!反逆罪を犯すのですか?」

エリスの動きが止まった。

「陛下は我々に"閣下が来たら捕えて自分の下に引き立てる様に"と直接命じられました。もし逆らえば閣下は反逆者に・・・・・・・」

部下達は眼に涙を浮かべていた。

「陛下が・・・陛下が直接・・・間違い無いのですか!・・・・・分りました。陛下は自分の元にと言ったのなら、その場で伺えば済みます。何の誤解か分りませんが、その時に釈明させて貰うとしましょう。」

そう言うと部下に剣を手渡し微笑んだ。

「陛下からの賜り物です。丁重に保管して下さい。私は広間へ連行されるのですか?」

だが部下は首を振る。

「それが・・・地下ドームへ御連れする様に言われております。」

それを聞いてエリスは目眩がした。地下ドームとは刑場なのだ。



第零近衛騎士軍団は元々皇女フェリシア直属、今は皇帝直属の女だけの部隊である。
規模は小さいが元帥でも有る皇帝フェリシアのみ命令され、エリス以外は例え将軍であっても命令は下せない皇帝だけの軍である。
だから性質上どんな問題も軍団内で処理しなくては為らない。
エリス自身、軽い罪を犯した部下を其処で懲罰していた。
鞭打ちなどの苦痛刑や人に見せられない恥かしい思いをさせる屈辱刑専門の処刑場で法廷を兼用する。
更に見せしめと裁判の公正化の為に其処で何かが行われる時は全士官が出席するのだ。

「私が・・・私が・・・何故・・・・・・」

更に言い難そうに部下は続けた。

「陛下は、閣下を逮捕したら鎧や正装でなく刑服を纏わせて連行する様にと・・・・・」

刑服とは文字通り懲罰を受ける受刑者に着させる服だ。麻のミニスカートのワンピースだ。

「別室に用意して御座います。どうか抵抗なさらないで下さい・・・・・・・」

エリスはガクンと膝を付いた。



エリスは部下の後を歩きながら考えを巡らす。
だが考えて見ればそれ程切羽埋まった状況で無かった。
もし自分の身分や地位を剥奪される程の重罪なら正規の法廷に連行される。
地下ドームなら鞭打ち程度の罪でしか無い筈だ。

何か陛下を怒らせる事をしただろうか?

なにか罪を犯せば陛下は喩え自分でも厳しく罰を与える。
そう言う意味では公明正大な方である・・・・・だが心当たりが、まるで無い。

もう自分が逮捕されたのは知れ渡っているらしく警備兵や侍従の娘たちの視線が痛い。
この宮殿内では男は一人も居ない。
元々は皇女邸宅だったので男子禁制、そして皇帝に成っても暗殺者など防ぐ為に新しい人手を入れなかったのだ。



やがて部屋の一つに通される。ベッドの上に麻の刑服が置いてあり思わず顔を背けた。

「お手伝いします。」

そう言って自分を案内した兵が鎧を外すのを手伝った。
エリスは笑いながら断った。

「それ位、一人でも出来ますよ。」

だが兵は言った。

「服は兎も角、これは・・・・・・・」

その態度を見て不信に思ったエリスは、もう一度刑服を見た。
大き過ぎて分らなかったが。刑服の下に木の板が有った。
それは首と手首を挟んで固定する木製の枷だった。
拘束されれば丁度板から首と手だけ突き出してる様に見える。
エリスは兵士に詰め寄った。

「陛下が、本当に陛下が私にコレを付けろと?答えて下さい。本当に言ったのですか?」

まだ若い少女と言ってもいいような兵士は半泣きになって答えた。

「ほ・・・本当です。陛下が全て直接指示なさいました。平静を装って居られましたが本当に御立腹で・・・・・・・」
「嘘・・・嘘でしょう?」

エリスの顔は真っ青に蒼ざめていた。


「第1章 女帝フェリシアの怒り 後編」(第4話)


結局、エリスに逆らえる筈は無かった。

若い兵士は放心状態のエリスから優しく鎧と衣類を脱がせると刑服を取り上げる。
エリスも我に帰りオズオズと刑服を身に着けた。
ワンピースのミニスカートと言えば聞こえは言いが、元々刑罰を与える為の服だった。
四つん這いにすれば、スグにお尻に鞭打ちが出来る様に丈は恐ろしく短い。
立っててもお尻がはみ出し、四つん這いに成れば双臀が丸出しだった。
勿論、下着など許されずエリスは耳まで赤く染まっている。

そして木製の首、手首枷が用意された。
枷を二つに分解し片方をベットの上に寝かせ、その上に自分の首と手首を載せた。
兵士がもう片方を載せてエリスの首と手首を挟み留め金を掛けた。
エリスはコレで自から自分の戒めを外せなく成ったのだ。



廊下に出ると誰も居なかった。
気を使って皆隠れたの様だった。
元々フェリシアもエリスも部下や使用人に慕われているので酷い目に遭う自分を見たくないのだろう。

エリスはその姿で地下ドームに連行される。
鉄製の大きな扉の向こうはガヤガヤざわついていた。
"全員揃ってるの?"エリスの鼓動が早くなる。
ここに来る士官なら全員エリスの部下だった。
こんな惨めな姿を自分の部下に見せたくなかったが逃出す訳に行かない。
第一エリスは自分が何をしてフェリシアを怒らせたか分らない。
案外チョッとした誤解かもしれない。
話せば分るかも知れなかった。

兵士が恐る恐る扉を開けると中は一息に静まり返った。
エリスは深呼吸して中に入る。
そこにはヤハリ自分の部下が整列していた。



地下ドームは、その名の通りドーム状の地下室だ。
闘技場の様だが中はそれ程広くは無い。
外周を士官席に取り囲まれ、真ん中には裁判時は被告人席、そして刑罰の執行時は処刑台になる直径5㍍程の円台、そして正面には皇帝陛下の玉座がある。
このドームでは、どんな些細な裁判でも皇帝であるフェリシアが直接裁く慣わしだった。

二人の兵士が近づいて来た。
この二人はエリスの部下では無い。
裁判官であるフェリシアの助手にして、刑の執行時には処刑人に代わる鞭の名人だった。

「フェリシア様より鞭打ち台の上で待っている様にとの事です。」

エリスは耳を疑った。
見れば円台の中心には罪人を鞭打ち時に拘束する台が有った。
エリスを拘束している"木製の枷"を二本の低い柱に固定する。
すると罪人はギロチン台に架けられた様に四つん這いで拘束されてしまう。
そうなればエリスのお尻は玉座と反対の側に座っている兵士達に丸見えだった。

「待って、私は・・・私は裁判も受けて無いのです。それなのに行き成り鞭打ち台に架けられるなんて・・・後生です。せめて・・・せめて陛下に一言・・・・・・・・・」
「お聞き訳下さいっ!」

処刑人はエリスを怒鳴りつけた。

「全て陛下の御言葉です。我々は確かにそう指示されています。もし従って頂けないなら、我々は新兵の小娘の様に貴女様を引きずって鞭打ち台に架けなければ為らないのです。貴女は部下の前で惨めに引きずられたいのですか?」

エリスの頬を涙が伝った。

「陛下が何故、お怒りになって居られるのか我々も存じません。しかし陛下は、すぐに来られます。その時に釈明されるがよろしいでしょう。誤解が有るならその時に・・・・・それまでは御辛抱下さい。」

エリスは膝を付き泣き崩れた・・・・・。


続く