A-MEN様作
聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 騎士と王女の物語 序章

「序章 聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 前編」(第1話)


巨大な城砦都市を臨む断崖絶壁の上に一人の女性が立っていた。

その女性は長いストレートのブロンドを風に靡かせ、白銀に輝く鎧を纏っている。
鎧は金色の葡萄をモチーフにした唐草模様の縁取りが入り大変高価そうな代物だった。
だが貴族が見得で身に着ける御飾りの鎧では無く、実戦本位の堅牢かつ軽快な動きを妨げない造りの鎧であった。

丁寧に修繕されているが薄っすらと残る数多の傷が、この女性が数え切れない実戦を潜り抜けて来た事を示している。

「閣下っ、ここに居られましたか!」

若い兵士が息を切らせて走ってきた。

「我が軍は港を制圧しました。これでゲルオハイム城は孤立します!」

兵士は膝を突き、荒い息を整えながら報告する。

「落ち着きなさい。我が軍は城を完全に包囲したのですか?城主ゲルオハインと司教ザイザルス、城主の息子クリオの行方は?」

やっと息を落ち着かせた兵士は返答する。

「司教は船で逃げ出そうとしましたが我が海軍に発見され城内に逃げ戻りました。城砦都市の上部、王宮か教会の辺りに居るかと思います。下部の城門付近にはゲルオハインが軍を率いて居りますが息子は教会で司教と、共に・・・・・」

その女性、エリスは兵士に向き直った。

「息子は未だ五つです。戦闘に連れていないでしょう。それより・・・・・・・」

軽く手櫛で髪を梳かすと尖った耳が現れる。エルフ族の証だった。

「仮にも一城の主です。刃を交わす間とは言え、呼び捨て止めなさい!」

そう言って王宮に隣接した教会を睨む。

「あのヒキガエルが子供を人質に脅しているのは判っています。出来れば正面から当って無暗に犠牲は出したく無いモノですが・・・。」

そう言って溜息を吐いた。正面衝突をすれば双方被害は甚大で有る。
それはエリスの望む処ではない。すると行き成り兵士が声を上げた。

「閣下!アレは・・・?」

兵士が指差した先で一頭の飛龍が真っ直ぐ此方に向かって飛んで来る。
その背には黒地に金龍の紋章を模った旗が翻っていた。

「皇帝陛下の伝令です!」

兵士が声を上げる。
やがて飛龍はエリスの目の前に舞い降りた。

「失礼します!第零近衛騎士団長エリス将軍で居られますか?」

エリスは頷いた。
すると飛龍から飛び降りた兵士はエリスの前で跪き書簡を差し出す。

「フェリシア皇帝陛下より緊急の連絡で御座います!」

エリスも跪き書簡を受け取る。
そしてスクッと立ち上がると書簡の中を見た。
すると眉毛が吊り上がる。

「如何か為されましたか?」

心配そうに兵士が聞いた。

「陛下、御自ら第一から第四軍団を率いて此方に向かうそうです。」

それを聞いて兵は安堵する。

「良かった。それを見ればゲルオハイン殿も降伏されるでしょう。」

だがエリスの顔は険しい。

「イケマセン、未だ即位されて日も浅いのに陛下が聖都を空けて如何するのです。帝国議会も良い顔をしないでしょう。それに自棄になったザイザルスが何をするか・・・・・・・」

エリスは人差し指の第二関節を咥え考え込んだ。
エリスが真剣に悩む時の癖である。
そして顔を上げると兵士に言った。

「夜を待って侵入します。選り抜きの兵士から志願兵を十人集めて下さい。ジョブは忍者かシーフを優先させて・・・・・」

そう言って鎧を外し部下に渡した。

「黒く塗リ潰した"出来るだけ軽い鎧"を用意して下さい。他の兵士も全ての装備を黒く塗りつぶす事を徹底。特に武器の刃は焼いて黒くして・・・今晩は新月、きっと上手く行く!」

そう言って城砦を睨み付けた。


「序章 聖帝フェリシアに握られし白銀の剣 後編」(第2話)


結果は大成功だった。
司教のザイザルスは泣いて命乞いをし、隠していた金銀宝石を差し出した。
だがエリスに一太刀で切り伏せられる。
前もって調べられていた司教の協力者も全て討ち取り、今エリスはゲルオハインの前に立っていた。

顔まで黒く塗ったエリスを見てもゲルオハインは嘲る事も無く静かにセリスを見詰ていた。
やがて短剣を抜くと自分の首に押付ける。
エリスは城主に飛び付いて空かさず剣を掴んだ。
余裕が無いので白刃を直に掴んでしまう。ゲルオハインは言った。

「死なせて下され。私は陛下に顔向け出来ません。」

エリスは短剣を奪うと静かに諭す。

「御子息を人質に取られた位で貴殿が裏切るなど陛下は思って居られませんよ。この都市の市民全てを人質に取るザイザルスの手口、陛下は全て御見通しです。給水地に毒を流そうとしていたザイザルスの手下は全て切り伏せました。その上で未だ貴殿が死にたいと御思いなら私も止めません。ただ全て陛下に報告してから死ぬが筋かと思います。しかし・・・・・」

そう言ってエリスはゲルオハインの手を取った。エリスの手は自分の血で濡れている。

「貴殿のような臣下を死なせて、一番悲しむのは誰か・・・・・良く考えて下さい。」

そう言い残しエリスは静かに部屋を出る。後には泣き崩れる城主が残されていた。



この戦いで皇帝フェリシアの名声は一気に高まった。
更にゲルオハインは厳しく叱責されたが、一切罪に問われず城も地位も其の侭に許された事が「慈悲深い皇帝だ」と評価され国民の人気も高まる事に成る。
人々は新しい皇帝の美貌と優しさ、そして統治力を称え「聖母の自愛に満ちた赤毛の女帝」と呼び称えた。
但し国民は影で「聖母の自愛」の後に「幼女の無邪気さ」を付け加えていた。
悪い意味でなく城から出ては身分に関係なく声をかけ、困っている人がいれば自ら手を貸す。
そんな人柄を称えての言葉だった。
歴代の皇帝の中で最も人気が高い。

またエリスも「聖帝フェリシアの手に握られし白銀の剣」と呼ばれる事になる。



エリスは嬉しかった。
先程、帝国議会で今回の功績を褒めちぎられたのだ。
今日はこれから王宮でフェリシアに会える。
議会では人目が有ったので一声お褒めの言葉を掛けてくれただけだが宮殿では、もっと沢山、誉めて貰えるに違い無い。

エリスとフェリシアは子供の時から一緒だった。
勿論皇女であるフェリシアに対しエリスは常に臣下として接してきた。
但し人前では・・・の話である。

エリスがその剣の腕と魔法の知識で騎士になり、海賊や山賊の討伐と氾濫の鎮圧で僅か一年で聖騎士に昇格するとエリスは就任先にフェリシアの近衛騎士を希望した。
その後、皇帝暗殺と王女誘拐を阻止した為、王女誘拐に荷担した前近衛騎士長の後釜に収まる事になったのだ。

だが近衛騎士長に就任した夜、就任祝いを渡したいとフェリシアに呼び出されたエリスは、フェリシアに犯され処女を散らされてしまったのだ。
如何やら前からエリスの事を狙っていたらしい。
エリスは騙された事に気が付いても、まさか力尽くで主を振り解く訳にいかずフェリシアの為すが侭に犯されてしまう。

その後も元々皇女の近衛騎士は警護の為、皇女と同じ部屋に寝泊りしなくては成らないのを良い事に毎晩フェリシアはエリスを弄んだ。
フェリシアは奥手だったエリスを手玉に取って、女王様振りを遺憾なく発揮し、完全にエリスを"ネコ"にしてしまう。
そのうちエリスはフェリシアの恋人にされてしまい侍従長を始め宮殿内外では公然の仲に成ってしまったのだ。

もっとも今では任務を一つ片付ける度に与えられる「年下の恋人の御褒美」を、心待ちにしてるのはエリスの方に成ってしまったのだが・・・・・全く困ったモノである。



さてエリスは王宮に辿り着き門を潜る。
すると行き成り警護の兵に取り囲まれた。
勿論この宮殿に居る全ての警護兵はエリス直属の部下達である。

「任務御苦労様、私です。通して頂けませんか?」

槍を突き付けられたにも関わらず労いの言葉を懸けるエリス、だが様子が如何も可笑しい。

「こ・・・皇帝陛下より、閣下を逮捕せよとの御言葉です!」

エリスは最初、言葉の意味が理解出来なかった。

続く