こちらの小説はお姫様倶楽部にも掲載されております。


T.MIYAKAWA様作
A WEEK 敵国の捕虜になってしまった王子は… 序 章

A WEEK 序 章 第0話 物語の始まり


物語は真夜中の森の中から始まった。
複数の兵がが一台の馬車を背に円陣を組んでいた。
彼らは周りに広がる暗闇の向こうから発する気配を感じ、神経を研ぎ澄ましていた。

兵士達が見えない空間に対し警戒し始めてしばらくした時だった。
突然、一本の矢が馬車に目掛けて飛んできた。
兵士達がその矢の存在に気がついたのは、一人の兵士がその矢に貫かれた時だった。
その兵士が倒れたと同時に敵兵が暗闇から押し寄せてきた。
残る兵士達が衝突している間、馬車の中から現れた人影が
森の茂みの中へと消えていった。

茂みの中から馬車のあった場所を眺めている人影の正体はある小国の王子だった。
彼が住んでいた国は今、敵国に攻め滅ぼされようとしていた。
父である国王は王子を国外へ逃がそうと馬車を走らせたが、
その逃走途中のこの森の中で敵に追いつかれたのだ。
王子は馬車の中で護衛の兵が押されているのを見て、自分の危ういと考え馬車から離れたのだ。

王子はそのまま森の茂みを掻き分けながら進んでいった。
進んでいく途中で木の枝等が引っかかってもひたすら走り続けた。
やがて王子は追っ手から逃れたと思い茂みから出た時だった。
茂みから出て1メートルも走らない時点で、王子の視界が一瞬遮られた。
その上、王子は顔が何やら柔らかいものに包まれていると感じた。

「何をそんなに急いでいるの?」

女性の声が王子の耳元で聞こえた。
目を開けると、王子の目の前に一人の女性が立っていた。
しかも、自分がその女性の大きな胸の中に顔が埋まっている光景に王子は驚いた。


「!!」

王子は慌ててその女性から離れようと振り向いた途端、後ろから取り押さえられてしまった。

「そう簡単に逃がすわけないでしょ。」

女性は王子を後ろから抱きついた状態で囁いてきた。

「ご苦労様。」

二人がそんなやり取りをしているうちに、背後から違う女性の声がしてきた。

「あ、隊長。 王子をこのとおり捕らえました。」

女性は「隊長」と呼んだ女性に誇らしげな顔で王子を差し出した。

「お手柄ね。 早く城に戻らなくちゃ。」

そう言って、二人の女性は馬に乗り暗い森の中へと駆け出した。
その時、王子は一人目の女性が駆る馬に乗せられていた。



敵国に到着したのは夜が明けた頃だった。
二人の女性は馬を降りると、王子をすぐに城の王宮内へと連れていった。

「どこへ連れて行くんだ?」

王子は二人の間に挟まれた形で歩かされていた。

「これから王宮にある玉座の間へ行くのよ。」
「そこで女王様に会わせるつもりよ。」

そう言って、二人は王子の質問に答えた。
突然、一本の矢が馬車に目掛けて飛んできた。
その後、王子は無口になり歩く速さも次第に遅くなってきた。

「コラ。」
「歩くのが遅いよ、早く来なさい。」

二人は王子に早く来させるよう両腕を引っ張り、今度は遅れないように体を密着させながらそのまま腕をからみつくような形で抱える事にした。
王子は左右から二人の大きな胸に押し付けられながら歩いていた。
廊下を歩いているうちにやがて大きな扉が目の前に見えてきた。
見張りの兵士がその扉を開けると、そのまま歩いていった。



(こ、これは…)

王宮の間に入った王子は床から天井までもが白で統一された広大な空間み驚きが隠せなかった。
王子は目をキョロキョロと動かしながら、白いに敷かれた赤い絨毯の真ん中まで歩いたところで二人は立ち止まりその場でひざまついた。

「スカーレット並びにプラム、只今帰還しました。」

スカーレットと名乗った女隊長の言葉にさっきまで俯いていた王子は思わず顔を上げてしまった。
王子の目には部屋の奥にある玉座に座っている女性が映っていた。
その女性が敵国の女王であった。

二人共、ご苦労でした。 特に敵国の王子を捕らえたプラムは大手柄よ。」

女王は王子の方を見ながら、スカーレットとプラムの二人をねぎらった。
一方、王子の方は緊張のためか立ち止まって動けないままでいた。

「それじゃあ、王子様にはもう少し来ていただこうかしら?」

女王のその言葉に王子は戸惑っていたが、隣にいたスカーレットが
ズボンの裾を引っ張ったことで我に返り、言われた通り歩き始めた。
王子が玉座の前にある階段の手前まで歩いた時、待ちきれなかったのか女王が目の前に立っていた。

女王は王子をしばらく見つめると、突然笑顔を浮かばせた。

「やっぱり、私の好みの子ね、気に入ったわ。」

女王は目を輝かせながらこう呟いた。

「手柄を立てたあなた方には褒美を与えることにしましょう。何を望んでいるのかしら?」

女王はスカーレットとプラムの二人の方を見ながら、機嫌のよい顔で言ってきた。

「プラム、あなたが言いなさいよ。」
「はい隊長、お気遣いありがとうございます。」

スカーレットにそう言われて、プラムは静かに立ち上がった。

「女王様、無理を承知で言わせていただきます。 こちらにいる王子を一日で構いませんからこちらに預からせていただきたいのです。」

プラムの願いというのは、他でもなく王子を自分の相手にしたいということだったのだ。
もちろんそんな事は聞き入れてくれないだろうとプラムは思っていた。

「そんなのでいいの? わかったわ、それでは明日から1週間王子をあなた達の自由にしていいわよ。」

女王は意外にもプラムの願いを快く聞き入れてくれたのだった。

「私達の願いを聞き入れて頂いてありがとうございます。」

二人はそう言いながら頭を深々と下げながら、女王に感謝したのだ。

「それじゃあ、早速王子を部屋に案内させなさい。」

女王に命じられた兵士は王子を連れていった。

「フフフ、1週間後が楽しみね。」

女王は王子が玉座の間を去っていく姿を見ながらこう呟いていた。



女王の謁見の後、スカーレットらは会議室へ移動した。
会議室に着くと、女王から与えられた1週間についての打ち合わせを始めた。

「さあて、どう決めたらいいかしらね。」

スカーレットは天井見上げながらこう呟いていた。
その口調は明るく目は輝いていた。

「あなたの今の発言、聞き捨てになりませんわね。まるで自分達だけの手柄のように聞こえるのですから。」

そんなスカーレットの様子を見て同席していた魔導師のイザベラが口を挟んできた。

「本当よね。 あなた達の手柄は私達の協力があったからこそじゃない。」
「その事を忘れないでほしいわ。」

イザベラと同じく一緒にいたディルと天海の二人も彼女に続いて会話に参加してきた。

天海とディルは「青の部隊」と呼ばれる傭兵部隊と、獣人だけで組織された「牙の部隊」とよばれる部隊の指揮をそれぞれ執っていた。
ちなみにスカーレットは正規軍の「赤の部隊」の隊長、プラムはその副隊長である。

「わかってるわよ。 協力してくれたことはとても感謝してるじゃない。」

スカーレットは3人に半分あきらめた口調で返事をした。
今回の戦いは天海らの協力があったとはいえ、主に活躍をしたのは自分達だと反論したいのがスカーレットの本心だったが、仮に反論しても聞き入れないことはわかりきっていた。
プラムも何か言いたがったのだが、スカーレットはそれを押しとどめさせた。

「あなた達、ここで何を話しているのかしら。まさか私をのけ者にしようと考えてるんじゃないでしょうね?」

突然のこの声にスカーレットらは驚いた。
彼女らは声のする方へ目を向けると、一人の女性がドアの側に立っていた。

「あら、カサンドラさんじゃありませんか。」

イザベラが声を掛けた女性、カサンドラは女王を護衛する親衛隊の隊長である。
階級の高さ等から、スカーレット達は彼女を快く思っていなかった。

「あなた達が何をしているのか、私が知らないと思っているの?」

カサンドラはスカーレットら二人が女王に謁見をしていた時、女王の護衛任務で玉座の間にいたので捕虜の王子の存在を知っていた。

「そんなことはありませんよ。私達は何もあなたを仲間はずれにしようなんて思ってませんよ。」

イザベラは笑顔でカサンドラに返答をした。
その言葉をスカーレット達は自分達の分け前が減ると言いたげな顔で二人、特にカサンドラを見つめながら黙って聞いていた。



こうしてカサンドラが話に参加してから1時間余り経過してから話は
ようやくまとまった。
1週間の1日おきに彼女達が王子の相手をする事になった。
最初の1日目は王子を捕らえたプラムが、そして後の5人はくじで残りの順番を決めることにした。
最後の7日目についてはその日まで取っておくことにしたのだ。

「早く私の出番の日にならないかなあ。」

スカーレットらはそんな言葉を交わしながら会議室を後にした。
こうして王子が知らない間に彼女達はこのような話を進めいていたのである。



その頃の王子は兵士の案内で城にある塔の中まで連れてこられた。
最上階まで階段を登ると、王子はドアで閉ざされた部屋を見つけた。

「ここがお前の部屋だ。」

兵士にそう言われて王子はそのドアを開けてみた。

部屋の内部を見渡す、そこには小さいベッドとテーブル、そして二人分の椅子が置かれているだけだった。
また壁には頭がようやく入るくらいの大きさの窓があるだった。
王子は牢獄へ連れて行かれると思っていたが、そうでなかったことに驚いた。

「それから、お前の世話はここにいる女が行う。」

王子は兵士が指を指す方向を見てみると、そこには一人のメイドが立っていた。

間もなくして兵士は部屋を出ていったころには、王子と世話役のメイドの二人だけが残されていた。

「はじめまして、今日からあなたのお世話をする事になりましたエスメラルダと申します。どうかよろしくお願いします。」
「こ、こちらこそよろしく。」

エスメラルダと名乗ったメイドと王子は互いに挨拶を交わした。

「随分とお疲れでしょ。 すぐにお食事の準備をいたしますから、ゆっくり休んでいてください。」

そう言ってエスメラルダは部屋を出て行った。
王子は食事ができるまでしばらく休むことにした。



日が沈み始める頃になって、エスメラルダが食事を持って戻ってきた。

「どうぞ召し上がれ。」

エスメラルダが見守る中で王子は食事を始めた。
王子にとってこの国での最初の食事だった。

「お口に合いますか?」

エスメラルダは夢中になって食べている王子にこう尋ねた。

「とてもおいしいよ、朝から何も食べてないからより一層というところかな。」

こうして夜は静かに更けていったが、これから起こる出来事をこのときの王子はまだ知る由もなかった。



続く