私立 慧蘭高校(けいらんこうこう)、数多くのスポーツ選手を輩出していることで有名な学校である。
この学校は、3年前までは女子高だった事もあって実に生徒の7割が女子であり、女の子のレベルもかなり高い事でも有名である。
薄暗くなった道を一人の少女が歩いている、彼女の名は、綾瀬和美(16)。
今年入ったばかりの一年生である。
彼女は、一見、見た目は普通の女子高生で、サラリとした腰まであるロングの髪に、服装は夏服のブレザーに今時では珍しい、膝下5cmのスカートと地味な感じだが、身長は170cm位、足はすらりと伸びていて、ウエスも細く、胸も見た目からCかDはありそうな、均一のとれたプロポーションをしていた。
彼女は、幼少期より実家が営んでいる剣道道場で、日々鍛錬を続け、若くしてその才能が卓絶していた。
彼女は、自分の腕を信じ、武道・格闘の名門と呼ばれるこの学校を選び入学してきた生徒の一人である。
そう、その日のその時までは・・・
その日、彼女は部活で遅くなり、更に忘れ物をして、教室まで取りに戻った為、帰りは一人になってしまった。
入学して三ヶ月・・・日も少しづつ長くなって来たとは言え、18時半も過ぎれば日も落ちて暗くなってくる。
「ここって、無駄に空き地が広い上に、周りも林だから、ちょっと気味が悪いのよね~」
ちょうど、そんな独り言を、工事現場の横を差し掛かる時にブツブツと言いながら歩いている時・・・
「綾瀬さん・・・」
いきなり、空き地の方から、呼び止められる声がした・・・
ドキッ!
和美の心臓が大きく跳ね上がり、恐る恐る声の方を見ると、薄暗くて見ずらかった、そこには一人の少年が立っていた。
田島は一週間前、和美にラブレターを書き、見事振られて、そのまま一週間、学校を休みつづけていたのだった。
「田島君!」
綾瀬は少し驚いた口調で声を出し・・・
「どうしたの、一週間も休んで? そりゃ~交際は断ったけど、私もねぇ・・・取りあえず、第一の希望が自分より強い男の子が理想だって・・・ねぇ・・・まさか、それで休んでたって訳じゃないよね・・・?」
綾瀬は、少し気まずそうに、ちょっと困った顔と口調で言っていると、田島が急に口を開いた・・・
「そうだね、君はそう言って僕の告白を断ったんだよね・・・だから、僕は強くなったんだ、君よりもね・・・」
田島の目が、不気味に少し光っている様にも見え・・・口元が薄くニヤついていた。
もし明るい所で見たのなら、そんな表情も綾瀬は見て、少しは警戒したかもしれなかった・・・
「えっ! 強くって・・・そんなの嘘をついても・・・」
綾瀬は田島のそんな言葉に驚きを隠せなかった。
なぜなら、綾瀬の実力はその年にしては群を抜いていて、中学時代は全国大会で優勝もして、自他共に認めるほどの腕前だったからだ・・・
「そうかい? じゃ、もし僕が本当に君より強いって証明出来たら、僕と付き合ってくれるかい?」
田島の意外な言葉に、綾瀬は驚き、言葉を詰まらせてしまった・・・しかし・・・
(まさか田島君が私より強いだなんて、困ったなぁ~そんな事があるわけ無いし、それに強ければとは言っても、私だってそれ以外に好みはあるんだから・・・さすがに田島君はねぇ~)
等と、心の中で考えていると・・・
「どうなんだい?」
田島から催促とも取れるような口調で聞かれ、綾瀬は仕方ないな~っと思いながら、
「そうねぇ~私より強いんだったら考えてもいいけど、どうやって証明してくれるの? まさか、私と試合でもするの?」
そうニコニコと笑い顔をしながら、一見穏やかに言い放つ和美に対し、田島は・・・
「そのまさかさぁ・・・」
言いながら、手に持っていた竹刀を見せ付ける様に言い放つ・・・
「今ここで証明してあげるよ」
続く
ニヤニヤと顔をニヤつかせながらゆっくり竹刀を構えかける田島に対し、和美は・・・
「ちょ、ちょっと・・・まさかここでするの? そりゃ~部活の帰りだし、私も竹刀は持ってるけど・・・」
和美は少し困った顔をしながら、慌てた口調で言い放つ・・・そんな和美を見ながら田島はニヤニヤした顔を崩さずに・・・
「なんだ、イザとなったら逃げるのかい? 口先だけの強がりなら誰にでもいえるよっ!」
ニヤニヤした口調で、明らかに馬鹿にしたいい口で和美に言い放つ・・・さすがの和美も、その一言にはカチン!っと来たのか、
「そんなに言うなら、相手をしてあげるはっ その代わり、怪我をしても知らないからねぇ!」
意外にも、和美は自分の強さには自信があるのか、否定されることに対しては明らかに不快感を覚え、冷静さを失いやすくなっていくのだ・・・この時、少しでも冷静さがあればっと後で後悔する時が来るのだが、それはまだ先の話である・・・
「じゃ、いいんだね」
ニヤニヤしながら構えたまま言い放つ田島に対し和美は・・・
「えぇ、貴方も怪我をしても知らないからねぇっ!」
興奮気味に言いながら、袋に入っていた竹刀を取り出し構えながら言い放つ・・・
「じゃ、行くよ・・・」
ザッ!・・・言いながら地面を蹴る音と共に、田島が一気に間合いを詰めた・・・
「早いっ!」
田島の意外にも早い動きに一瞬戸惑った和美ではあったが、そんな事だけでは終わるはずも無く、何とか田島の竹刀と受け流すと間合いを取りながら体勢を整え、竹刀を構え直している・・・
(おかしい、田島君にあんな動きが出来るなんて)
一抹違和感を覚えながら、慎重に相手を見合う和美に対し、田島は・・・
ハッ! ハッ!
矢継ぎ早に連続で打ち込んで行く・・・
クッ! 早い・・・
(なぜこんな動きが、強い)
和美は連続で打ち込まれる田島の竹刀をかろうじて受け流しながら思った。 しかし、和美もただでは引き下がらなかった。
ヤァ~ パンッ!
和美の竹刀が田島の竹刀を弾き、その衝撃で田島はバランスを崩した・・・
今だっ! ザッ!
和美はその隙を逃さず、一気に間合いを詰め、竹刀を振り下ろした・・・
(当たる)
パンッ!
そう確信して打ち下ろした竹刀が・・・田島の頭を打ち抜いているはずなのに、何故か地面を叩いていた・・・
(なぜ?)
そう思った和美が後ろ振り返ると、弧を描く様に地面から砂煙を上げて後ろに立つ田島を見つけた・・・
(そんな、一体どう言う事? 人の動きじゃありえない・・・?)
和美がそう思っていると・・・
「うぅ~ん、やっぱり、そう簡単にはいかないかぁ~この状態って結構疲れるんだよねぇ~」
等と、少し疲れた顔でニヤニヤしながら言い放つと、ポケットからなにやら赤い水晶の様な物が付いたペンダントを取り出し、和美の前に出して見せた・・・そう、『催魔の輝石』である・・・
「何、それは? まさか、私にプレゼントって訳じゃないでしょ?」
構えを解かないまま、少し緊張した状態で聞くと田島は、
「いやいや、これはさすがにあげれないよ、ただし、これを見てしまった以上、君はもうこれから目が離せなくなっているんじゃないのかなぁ?」
「は? 何を・・・うぅ!」
少し、ニヤついた口調で言う田島に対し、当の和美はいつの間にか言われたままに目が離せなくなっていた・・・
「これは、『催魔の輝石』と言って、黒魔術の特殊なアイテムの一つなんだ・・・」
ニヤニヤとそう言い放つ田島に対して和美は冷や汗をかきながら、
「そんなものを使ってどうするつもりっ! 自分が強いって証明するんじゃなかったの!」
ペンダントから目を離せなくなった状態のまま、和美はかなり興奮しながら捲くし立てる・・・
「そうさぁ・・・だから君より強い所を見せただろ・・・このペンダントで君の動きを封じてね」
ニヤニヤと言い放つ田島の顔つきを見て、和美はやっと事態を把握し始めていた・・・
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・そんなの卑怯じゃない? 第一、そんなのを使って勝っても私は認めないからね・・・」
和美は段々と気弱な口調になりながらも、言うべきことだけは言い切った・・・
「そうだね、君なら多分そう言うと思ったよ・・・だけど大丈夫、このペンダントの力はただ動きを止めるだけじゃないんだから・・・」
ニヤニヤと言い放つ田島の顔は、怪しくも不気味に笑っていた・・・
続く